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秩父宮賜杯 第47回全日本大学駅伝対校選手権大会
11月1日(日)熱田神宮西門前~伊勢神宮内宮宇治橋前
総合 1位 東洋大 5:13'04 ※東洋大新
1区 1位 服部勇馬(済4=仙台育英) 43'11 (通過1位)
2区 1位 服部弾馬(済3=豊川) 37'34 (通過1位)※東洋大新
3区 1位 口町亮(法3=市立川口) 26'58 (通過1位)※東洋大新
4区 5位 櫻岡駿(済3=那須拓陽) 41'01 (通過1位)
5区 2位 高橋尚弥(工4=黒沢尻北) 33'54 (通過2位)※東洋大新
6区 2位 野村峻哉(済2=鹿児島城西) 36'08 (通過1位)
7区 1位 堀龍彦(済2=大牟田) 35'10 (通過1位)
8区 4位 上村和生(済4=美馬商) 59'08
大会MVP 口町亮
第1中継所 服部勇(左)― 服部弾
第3中継所 口町(左)― 櫻岡
第4中継所 櫻岡(左)― 高橋
第5中継所 高橋(右)― 野村
第6中継所 野村(右)― 堀
第7中継所 堀(左)― 上村
初優勝のゴールテープを切ったアンカー・上村
酒井監督が3度宙を舞った
お立ち台で悲願の日本一に輝いた喜びをあらわにした
区間記録に迫る走りで後続との差を広げた口町がMVPを獲得した
笑顔の花が咲いた。全日本大学駅伝(以下、全日本)で悲願の初優勝を達成した。「絶対に負けない」。1区の服部勇が2区の服部弾にトップでタスキを渡すと後続の選手もゴールまで1位の座を守り通す。粘りの走りで三冠を狙う青学大との接戦を制した。8区間中4人が区間賞を獲得し、口町(法3=市立川口)がMVPに選ばれるなど伊勢路に鉄紺旋風が巻き起こった。
どのチームよりも早く、真っ先に伊勢神宮に飛び込んできたのは鉄紺のユニフォームだった。「選手一人一人が自分の役割をしっかり理解できていた」。酒井監督は今大会の勝因を語る。選手が役割を理解し、なおかつチームスローガンでもある「1秒をけずり出す走り」が実践できたからこそ、勝ち取った優勝。選手たちには笑顔があふれ、酒井監督の目には涙がにじんだ。
今大会は前半に出雲駅伝を走った経験者、終盤に今季初の駅伝となる選手が配置されていた。そのため前半で勢いをつくること、特に1、2区の服部兄弟で単独トップに立つことが優勝へのカギとなった。1区は各校のエース格が多く出場する中で、互いにけん制し合い序盤はスローペースで展開する。兄の勇馬は終始冷静にレースを進めると、ラストは早大と青学大を振り切り1位で弟の弾馬へタスキをつないだ。2区は勇馬も前年に区間賞を取ったことのあるエース区間。「兄を超えるような走りができた」。6km付近の給水地点で仕掛けた後にもまだ余裕が残っていた弾馬は、得意の驚異的なラストスパートで後ろの駒大と26秒の差をつけ突き放す。プラン通り東洋大が単独トップに立った。
服部兄弟のつくった流れを引き継いだのは出雲駅伝で東洋大唯一の区間賞を取った口町だ。背後から追ってくる選手との差を気にしながら走ったため、前半は予定していたペースより速く入る。後半で表情が険しくなるが、それでも後続との差を広げて区間記録まであと3秒という走りを見せた。1区から3区間連続の区間賞を獲得したことでチームは勢いに乗った。続く櫻岡は青学大のエースの一人である久保田に早い段階で追い付かれ、一時は先行されてしまう。しかしラスト2kmまで食らい付いて粘ると一気にギアを切り替え抜き返した。「4区終了時までにトップにいられれば優勝が見えてくる」。まさに酒井監督の狙い通りのレース展開。優勝へと着実に近づいていた。
しかし、三冠を狙う青学大にも意地がある。5区の高橋は出雲駅伝での悔しさを晴らすかのように何度も前へ出ようと仕掛けるもなかなか離し切れず、タイム差なしでのタスキリレーとなった。この接戦に決着をつけたのは今季急成長した6、7区の野村と堀。レース前に「2年でタスキリレーできるな。自分たちで後ろと大きく差をつけてやろうぜ」と誓い合っていたという2年生コンビだった。青学大と同時にタスキを受け取った野村は後半までに先行する思惑とは裏腹に前を許してからも、勝負を諦めない。「ラストスパートには負けない自信があった」と巻き返すだけではなく、さらに10秒差をつけて堀につないだ。すると三大駅伝初出場ながら堀も後続をさらに突き放す快走を見せ、東洋大4人目の区間賞も手にする。タスキはアンカーの上村に託された。
2位との差は27秒。青学大のアンカー・神野は実力者であり、この差を追い詰めてくる可能性がある。「いつ来るんだろうという怖さがあった」。上村はいつ後ろから迫ってくるかわからない危機感に耐え、ここまでタスキをつないできた選手たちのことを思い浮かべながら「必ず自分もやってやろう」と強い気持ちで最長区間を疾走。そしてついに、上村は両手を強く握り締め喜びをあらわに1位でゴールテープを切った。
出場23回目にして初タイトル獲得に鉄紺集団から歓声が上がった。エースの服部兄弟だけではなくそれぞれの選手の地力が光った今大会。何度も直面した激戦に選手たちは粘り強く1秒をけずり出す走りを繰り広げ、悲願の日本一を勝ち取った。箱根駅伝は距離が長くなり区間も増えるため、チーム全体として更なる底上げが必要となるだろう。この優勝を自信に変え、箱根駅伝の王座奪還に向けてまずは一歩、踏み出した。
■コメント
・酒井監督
今年勝ったということと、就任して今まで2位が4回だったので長かった初優勝で本当にうれしい。(選手一人一人が)自分の役割をしっかり理解できていたことと、チームスローガンの走りができていたのでそれにつきるかなと。1区の勇馬は先頭で渡し、2区の弾馬は突き放す役割を果たしてくれた。(勝負を決めた2年生は)6、7区で大事なのは順位を下げないこと。後ろの区間に少しでもリードして渡すということが重要なので、二人ともラストスパートをすごく頑張ってくれて良かった。次のステップとして速い入りでも押していけるようにしてほしい。(全日本に臨む前のチームの雰囲気は)走れなかったメンバーも、エントリーに入れなかったレベルも悪くなかった。チームの中でも、先週の高畠競歩や平国大記録会に出たメンバーも全日本に向けて流れをつくれるように頑張ろうとしてくれていた。(箱根に向けて)トレーニングの成果が結びついているなと思う部分もあるし、まだもっと出せる力もついている。やはり青学大が強いので主要区間は簡単に区間賞を取れないと思う。箱根では単独で20kmを走れるスタミナが必要なのでしっかりつけて、箱根ではもうワンランク上げていきたい。競り合えるように王座奪還目指して頑張りたい。
・1区 服部勇馬(済4=仙台育英)
大事なスタートなので最後まで諦めないことや、みんなも見ているのでここで自分の走りを見せることで気持ちも引き締まると思うし、色々な思いをすべて込めて走った。走り始めはきついかなと思って心配だったが、終始冷静にレースを進められたので良かった。他選手がスパートしていく中で「絶対につかまらないぞ」という気持ちで最後まで走っていた。やはり(他選手が)最後までいき切らなかったのでラッキーだった部分もあるし、その辺りの見極めもうまくなってきたかなと。出雲に比べてもレース感覚が戻ってきている。(ラストスパートの心境は)青学大には絶対に負けないという気持ちと最終学年の意地が入り交じって、走れない選手の思いも込めながら走った。最後あのように終われたので弾馬にとってもいい位置で渡せたと思う。(優勝できて)うれしい。自分が走れないときもみんなが走ってくれていて「頑張らなきゃいけないな」と思わせてくれたので、つなぎ区間で秒差を稼いでくれて、頼もしかったしすごくうれしかった。(サポートメンバーについては)メンバーに選ばれず悔しい思いをしている中で、寺内(ラ4=和歌山北)や竹下(済2=東農大三)が全力で応援してくれたので優勝につながったのかなと。(箱根に向けて)弾馬が今は頑張ってくれているが、負担を減らせるように自分も主将としてだけではなくエースとして頑張りたい。
・2区 服部弾馬(済3=豊川)
勇馬も区間賞を取っている区間だったので、それ以上はいかなければならないと思った。兄を超えるような走りができたと思う。(2区を任されて)どこの区間を走っても区間賞を取って後ろと大差をつけるというのが自分の仕事だと思っていた。どこを走っても区間賞という気持ちで臨んだ。(トップでタスキを受けて)兄が1番できたので、自分も1番でいかなければならないと思った。(監督からの指示は)自分のリズムで刻んでいけば後ろも離れると言われていて、その通りの走りができた。(レース展開は)給水地点があって、そこが仕掛けるポイントだと思って出た。ラストスパートはかけられるだけの余裕があったので、まだまだいけたのかなという気持ちもある。(出雲、全日本とエース区間で流れをつくる走りをしたが)やっとエースになれたかなと思う。駅伝だからという気持ちではなく、自分の走りをすればいけると、考え方が変わった。トラックレースと同じような気持ちで臨めば失敗することもないというように思うようになって、思い通りの走りができた。(初優勝して)一人一人の最後の粘りであったり、その1秒をけずり出せのスローガンのもとで少しずつ稼いでつないだ結果、最後の上村さんの差になったのかなと思う。(どんな気持ちでレースを見ていたか)そわそわする場面は何回もあったが、あとは個人個人で頑張るだけなので、今までやってきたことは無駄じゃなかったんだと思った。(何か言葉をかけられたりは)勇馬の方が緊張していたので、逆に自分が「何緊張してるんだよ」って感じで言った。監督からは「最初からどんどんいけ」と言われていて、その結果ああいう記録が出たと思う。(箱根に向けて)走った選手以外にも寺内さんがいたり、外れたメンバーも後半区間の5、6、7区の選手とほとんど変わらない力を持っているので、このまましっかりやっていけば箱根でも戦えると思う。
・3区 口町亮(法3=市立川口)
僅差だが区間賞を取れて良かった。1位でタスキがきているが、ここまで大きい駅伝の先頭で走るのは初めてで、最初は後ろとの差を気にしながら走った。(レースプランは)できなかったが1kmまでは落ち着いて入ってラスト2kmでスパートをかけ、後ろを諦めさせるようにという指示だった。(実際は)前半速くなってしまいその分後半にきつくなった。70点くらい。(後ろとの差は開いたが)その点は良かったが、2位の青学大は4区の久保田さんが速いので、もう少し広げられたら櫻岡に楽をさせられたのかなという気持ちはある。(MVPは)なんで取れたのかわからなくてびっくりしている。自分が思っている以上に周りの方に評価していただいたと思う。そんな走りをしたと感じていなかったので驚いた。(区間新まであと少しだったが)走っている時は特にそういうことを意識していなかったので、執着はあまりない。(出雲、全日本と区間賞を獲得して)去年までは調子が悪い時期だったが今年は合わせることができている。(要因は)学校の生活リズムに慣れてきたところだと思う。(今後は)ここまでいい流れできたので、そのままこの後の記録会や箱根に継続していければいいなと思う。
・4区 櫻岡駿(経3=那須拓陽)
主要区間で周りにも強い選手が多いのでしっかり自分の責任を果たしたいと考えていた。 前の区間がみんないい走りで、トップで後ろと引き離して持ってきてくれたので自分もしっかり走ってトップでつなぎたいと思って走った。思っていたより早く追い付かれてしまい、まずいかなと思ったけれど結果として少しだが差を開き直してタスキを渡すことができた。前半やられすぎだったが最低限の走りはできたと思う。ラスト2kmで仕掛けてこのままいけると思って走った。自分のペースで走り、追い付かれた場合もしっかり粘ってラスト2kmでギアを切り替えていくつもりだったので予定通り。(全日本を終えて)初優勝をしたメンバーとして走ることができて本当にうれしい。後続のメンバーが本当に頑張って走ってくれたのでこういう結果になったと思う。沿道からの声援がすごく聞こえていて、励みになり後半スパートをかけることができた。今回自分としては区間5位でまだまだなので、箱根では区間賞を取ってチームに貢献できるようにしっかり頑張っていきたい。
・5区 高橋尚弥(工4=黒沢尻北)
前半いいペースでいけたが追い付かれて、しばらく併走していたが余裕はあった。でもラスト2キロで勝負だと思い、何度も仕掛けたが離し切れなかった。櫻岡がつくった7秒差を使ってしまったことが反省点。監督からは落ち着いて走ろうということを言われていた。(出雲の後からは)「お前のせいじゃない」って言われるのが僕にとっては一番つらかった。でもチームのみんなはそれを笑いに変えてくれた。「今日はコース間違えるなよ」とか「地図持って走ったほうがいいんじゃないか」というような冗談で気持ちを楽にさせてくれて、ありがたかった。だから今日は出雲の借りを返すという思いで走った。(優勝してみて)素直にうれしい。ずっと優勝すると言ってきたので本当にうれしい。下の名前を呼んで応援してくれる人もいて、励みにもなった。今回のレースをいい経験として今後またステップアップしていき、箱根では王座奪還を狙って勝ちにいきたい。
・6区 野村峻哉(済2=鹿児島城西)
(出雲、全日本駅伝にエントリーされたときは)1年生の時は全然結果を残せていなかったので、今年はやってやろうと思っていた。その気持ちで夏合宿もしっかり練習を積められた。選手に選ばれたことに関しては、周りの人にも本当に感謝している。前の方できていたので少し緊張したが、絶対優勝するんだと思って、青学大に負けない走りをすることを心がけた。あまりアップダウンが得意ではなく、自分の課題だとわかっていた。そこまでに突き放そうとしていたが、突き放せず青学大に抜かされてしまった。それでも、ラストスパートには負けない自信があった。(高橋さんが)いい位置で持ってきてくれてありがたかった。(ラストスパートは)ずっと青学大に取られていることが多かったし、自分の同期で青学大に入った選手もいるので入寮当時から負けたくないと思っていた。青学大には絶対負けないんだという強い気持ちでスパートをかけた。まだ実感していないが、優勝できてうれしかった。(沿道で)竹下が声をあげて応援してくれてうれしかった。竹下のためにやってやらないといけないと思っていた。声をかけてもらってラスト上げられたと思う。(箱根駅伝に向けて)まだまだ力がないので、今からしっかり練習を積んで、力をつけて箱根駅伝では区間賞を取ってチームの優勝に貢献したい。
・7区 堀龍彦(済2=大牟田)
正直トップではもらえないと思っていたが、野村がラスト頑張ってくれてトップでもらえたので、自分のペースで走っていくことができた。最後は苦しかったが、最低限の走りはできたと思う。(初駅伝だが)緊張は全くなく、駅伝を楽しむことができた。出雲では当日のエントリーから外れたが走れる状態だった。そこから今日まで調子を上げてこれた。野村とは宿舎でも「2年でタスキリレーできるな。自分たちで後ろと大きく差をつけてやろうぜ」と話していた。この学年が去年駅伝を走れていなかったので、2年で頑張りたかった。(自身の走りは)序盤はいいペースで入れた。中盤からピッチが落ちてしまい、目標タイムには届かなかったのでまだまだ。後ろの青学大は気にせずに走れた。今回が初駅伝で、やっと自分の大学駅伝のスタートを切れた。優勝できて自分でもうれしく思うし、走った人全員が頑張ったのはもちろんだが、付き添いの人の方々やサポートしてくれたみんな、寮で応援してくれたみんなで頑張ってきた結果だと思う。全員で勝ち取った初優勝。(箱根駅伝に向けて)自分はまだ距離に対する課題があるので、箱根や来年のためにもしっかり克服して服部兄弟だけじゃないところを見せたい。
・8区 上村和生(済4=美馬商)
自分の走りには満足していない。目標タイムよりも遅く、後半もタイムを落としてしまった。1区から勇馬が主将らしい走りで、弾馬と口町もそれに続いてくれたので必ず自分もやってやろうという気持ちでいた。ラスト5〜3㎞あたりから沿道の人が増えてきて、優勝を確信し始めた。後ろには青学大の神野がいたので、最初の10kmまでいつ来るんだろうという怖さがあった。途中の沿道でチームメイトが後ろとの差を伝えてくれて、そこで自分が離していることを知った。(ゴールテープを切った瞬間は)「ああ、優勝したんだ」という気持ちになった。今季は夏も走れなくて、出雲も出れなかった。今回は選手としてチームに貢献できて良かった。箱根でも優勝を目指してチームみんなで頑張っていきたい。
TEXT=吉川実里 PHOTO=石田佳菜子、野原成華、吉川実里、伊藤空夢、福山知晃、畑中祥江、青野佳奈