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新年あけましておめでとうございます。
2016年4月号から「スポーツ東洋」にて連載してきました「ゼロからはじめるアメフト学」。
当初はアメフトのルールや雑学を紹介する企画だったのですが、徐々にコラムと化していったこの連載。
きっと後輩が 受け継ぐことはないと思うので、連載はスポーツ東洋箱根号(1月2日発行)で最終回を迎えていた予定ですが、
12月18日、3部との入れ替え戦に勝利し2部残留を決めたアメフト部のサイドストーリーを、アメフト学特別編としてここに掲載させていただきます。
3部農工大との入れ替え戦。タイブレークまでもつれた激戦を制したVIKINGS。
「3部降格という歴史を作らないことが最後の4年生としての責任」。長嶺主将(済4=函館ラサール)が語った言葉はなんとか果たされた。
苦しくも最後に最低限の結果を残したリーグ戦を、サポーター、マネージャー、ヘッドコーチ、主将、4つの想いで振り返る。
サポーターの想い
本紙のアメフト学でも書いたように、チームがどんなに結果が出なくても毎試合会場にて、自作のプラカードを掲げながら声を枯らし続けた保護者、OB。
リーグ戦最終戦後には、「本来はここで終わりなんだけど。もう1試合よろしくお願いします」と入れ替え戦行きを重く受け止めながらも、私たちに明るく声をかけてくれた。
そして3部との入れ替え戦。この日もいつもと同じように会場には「ゴーゴー東洋」の声が鳴り響いていた。タイブレークを制し2部残留を決めたその瞬間、観客席には歓喜の輪が広がった。長嶺主将を先頭に選手が観客席にむかい頭を下げると、割れんばかりの拍手が浴びせられた。「OBも心配していたが、なんとか残れてよかった」。OB会長は安どの表情で残留を噛みしめた。今までVIKINGSを引っ張ってきた選手も多く会場に駆け付けたこの試合。OBの、時には厳しくも温かいゲキはいつもフィールドの選手に届いていたはずだ。さらに「練習で人数が足りない時にOBの方に参加してもらったりもした」(高浦(理4=川口北))というように、選手以外もVIKINGSの2部残留のために労を惜しまなかった。
来季はまた同じように2部の舞台で「ゴーゴー東洋」の声がこだまする。「次は1部との入れ替え戦に期待したい」。OB会長の言葉通り、来季は1部昇格決定で勝利の賛歌を歌うために。最強の応援団とともにVIKINGSの次なる戦いは〝ココカラ”始まる―。
取材に応えるOB会長「とにかくよかった」と肩をなでおろした
マネージャーの想い
「すごいひやひやした。選手と同じ気持ちになって本当に泣きそうだった」。山崎マネージャーはこの一戦を特別な想いで見守っていた。
マネージャーはトレーナーとは異なり、選手のけがの手当てなどを行うことはできない。「傷を見つけても自分が手当てをできなかったのは悔しかった」。それでも、チームのために、とくに4年生になってからは後輩にも指導しながらマネージャーの仕事をやり通した。「さりげないことで選手がありがとうと言ってくれることが自分の中でのやりがいになっていた」。私たちも取材をしながら感じる、チーム、選手の温かさがマネージャーの助けとなっていた。だからこそ、現チームの最終戦となったこの日、選手に悲しい涙を流すことだけはしてほしくなかった。「今日が自分の中では一番印象に残った。3部との入れ替え戦だったが、今まで支えてくれた人たちへの感謝の気持ちや本当に勝って良かったという気持ちが強くて、本当に今日は一番嬉しかった日」。悲しみではなく喜びの涙で山崎マネージャーの目はいっぱいだった。
大学入学後の新勧でたまたまビラを受け取ったことで出会ったアメフト。マネージャーといえば当初のイメージでは「水を配ったり、洗濯したり」だったが、実際に見ると「ビデオを撮ったり、広報活動もしたりしていて。選手だけが戦っているのではなくマネージャーと一体になって全員で戦っているのが見ていてとても伝わった」。それからは4年間チームと苦楽をともにした。選手と同じくマネージャーは4年間チームのために働きながら、就職活動なども同時並行でこなすことになる。普通の学生に比べると時間的にも精神的にもハードな状態だが、すべてを終えた今、想いはひとつ。「後輩にも、最後まで絶対にやり遂げてほしい。やっている時は本当につらいこととか大変なこととか、就活を並行してやるとなると大変で、たぶん辞めたいと思うこともあると思う。でも終わった時にやって良かったとか、自分も4年間成長できたなと絶対思えるようになるから」。山崎マネージャーはこの4年間、そして今日の日を〝ずっと忘れない”だろう。そして、山崎マネージャーの想いは次の世代へときっとつながる。
ヘッドコーチの想い
西村ヘッドコーチは「初戦勝ってそこから引き分け、負けを繰り返して、チームの雰囲気を保つのが大変だった」とシーズンを振り返った。試合後の取材では、メンタル面での話が多かった1年。チームが勝利から遠ざかっている時、だれもが勝ちたいと思っているがそのベクトルがチームとしてなかなかひとつにならず苦労した。
昨季は1部との入れ替え戦に進む好成績を残したが、今季はリーグ戦であげた白星はわずかにひとつ。スポーツ推薦枠がないアメフト部は、大学からアメフトを始める選手も多くチームの陣容も1年ごとにガラリと入れ替わってしまう。今季は1年生も積極的に起用するなどして育てながらリーグをなんとか戦い抜いた。そんな西村ヘッドコーチに、チームが負けこんでいた神大戦のあと「学生アメフトチームの指導者」としての本音を少し聞けた瞬間があった。その内容は「記事には書かんといてね(笑)」と釘を刺されてしまったが、決してネガティブな話ではなくある種の覚悟のようなものを感じた取材だった。大学の体育の授業も担当している西村ヘッドコーチは誰よりも学生のことを見ているし、理解している。この人物なくしてVIKINGSを語ることなんてできない。「プレイヤーじゃなくてアスリートの気持ちを身に付けてもらいたい」。大学という最後の学生スポーツ、最後の育成期間という貴重な時間だからこそ、厳しくも熱い指導で試合中も練習中も吠え続ける。「大きな目標は1部に残留できるチームだから、上がっても落ちたら意味が無いし、そういうチームじゃだめ」。冷静に足元を見つめるも、大きな目標は「1部」。雑草集団の闘将は虎視眈々と〝華麗なる逆襲”の時を狙っている―。
選手をねぎらう西村ヘッドコーチ
主将の想い
試合後、いつもより大きな声で感謝を述べると、いつもより長く観客席へ頭を下げた。重圧から解き放たれた長峰主将は満面の笑顔を見せた。
「上の学年と比較されることが最初は多くて、そのハードルを越えるのにすごく時間がかかった」。1部入れ替え戦に進んだ昨季、2年連続で主将を務めた永藤(平成28年度卒)、チーム・個人の2つの部分で比べられることが多かった。「結局上は越えられなかったが、それでも後輩が付いてきてくれたのがうれしかった。そういうところで4年生が下に支えられた1年だったと思う」。謙虚に話すが、山崎マネージャーは長嶺主将の奮闘を近くでずっと見てきた。「私たちの代の4年生のプレーヤーはあまり感情を表に出して盛り上げるタイプではない。でもその中でも長嶺はそんな感じではだめだと思って、積極的に声を出して盛り上げてくれていた」。
長嶺主将が常々口にしてきた言葉「責任」。最上級生として、そして主将として、多くの責任を背負いながらも決して弱音を吐くことはなかった。春に練習取材を行った際は「初めて主将という立場になって難しさを感じている」と語っていたが、その不安は自身の行動で取り払った。「今年1年間長嶺で始まって長嶺で終えた、あいつは最後まで声を出していつも枯らしていた。キャプテンらしいキャプテンだった」。西村ヘッドコーチの言葉、そして入れ替え戦の結果、最後の最後に長嶺主将の努力は報われた。
ロッカールームから出てきた長嶺主将はすがすがしいほどの笑顔だった。OBらと歓談しながら笑みをこぼす長嶺主将が漏らした本音。「今年が一番つらい年だった」。大学アメフト生活4年間を振り返りつつも、こう語ってくれた。「4年間楽しかった。最後に勝てたので、より一層アメフトを好きになれたかな」。最後に自分の力、チームの力で手にした最高の景色。〝この瞬間、きっと夢じゃない”。長嶺主将を筆頭にチームが作ったこの瞬間はずっとチームの歴史に刻まれる―。
観客席に深々と頭を下げ、感謝を述べる長嶺主将
あとがき
〝国民的スター”の解散などさまざまな出来事があった激動の2016年。
スポーツ界も、リオ五輪をはじめ日本シリーズやクラブワールドカップなどおおいに盛り上がりました。
そして、大学スポーツ。東洋大学でもリオ五輪に多くの選手が出場したり、相撲部が日本一になったり、準硬式野球部・女子アーチェリー部・男子サッカー部などが1部昇格を決めたりとたくさんのうれしいニュースが舞い込んできました。たくさんのうれしい記事を書かせていただきました。
スポーツには大小、認知度も含め多種多様なものがあります。スポトウが取材させていただいている21のスポーツの中にも、取材の規制がしっかりされているものから学生スタッフが運営しているものまで規模やレベルもさまざまです。そんな中で私たちが伝えるのは結果はもちろんだけどそこにあるドラマ。大学スポーツというまだまだ認知も人気も発展途上のものをこうしていつも近くで取材させていただけることに感謝とともにチャンスと思って。結果でのみで比べるのではなく、その中身まで楽しんでいただけるようにこれからも進化を続けていきます。本年も「スポーツ東洋」をどうぞよろしくお願いいたします。〝どうか届きますように”。
TEXT=吉本一生 SPECIALTHANKS=松井彩音、吉本一生、玉置彩華、美馬蒔葉、松本菜光花、美浪健五