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第96回東京箱根間往復大学駅伝競走 往路
1月2日(水)大手町読売新聞東京本社前~箱根町芦ノ湖駐車場入口
往路11位 東洋大 5:29'15
1区(21.3km) 西山和弥 1:03'15(14位通過・区間14位)
2区(23.1km) 相澤晃 1:05'57 (7位通過・区間1位)※区間新
3区(21.4km) 吉川洋次 1:03'33 (10位通過・区間13位)
4区(20.9km) 渡邉奏太 1:06'05 (14位通過・区間20位)
5区(20.8km) 宮下隼人 1:10'25(11位通過・区間1位)※区間新
1区・西山
2区・相澤
3区・吉川
4区・渡邉
5区・宮下
第96回東京箱根間往復大学駅伝競走(以下、箱根)が、ついに開幕した。往路連覇中の東洋大はまさかの展開が続き、11位で芦ノ湖のゴールテープを切った。
長く苦しい箱根路となってしまった。1区には3年連続の起用となった西山(総3=東農大二)がエントリー。大学3年目はけがが続き、思うように練習が積めていなかった。フォームの改良を行うも、まだ完全にものにはできていない。三大駅伝のうちの出雲駅伝(以下、出雲)、全日本駅伝(以下、全日本)が不発に終わり再起をかけて挑んだという状況は前回大会と同じ。しかし、より不安要素が多いまま高速レースが予想される1区の戦いに身を投じた。1区のスペシャリストの西山が、先頭付近でレースを進める。しかし、10km過ぎのことだった。それまで快調に見えた西山の動きが鈍くなった。先頭集団から遅れ、どんどん後方へ追いやられていく。2年連続鶴見中継所には先頭でやってきていたが、今回2区の相澤(済4=学法石川)の手にタスキが渡った時点で14位。「流れをつくれなかった」と後悔の言葉を口にした。
学生ナンバーワン。そう呼ばれるに相応しい背中が、鶴見中継所を駆け抜けていった。今大会の相澤の目標は、前回大会で塩尻(当時順大)が残した日本人最高記録の更新だ。チームがスタートで出遅れる想定外がありつつも、相澤はそのダイナミックかつ繊細な走りで前方の選手を追い抜いていく。途中、記録会など日頃から切磋琢磨(せっさたくま)してきた伊藤(東国大)と並ぶと、そのまま2人で追撃の並走を始めた。順位を7位まで上げると、20km地点で相澤は「1時間5分台が出る」と確信。そしてラストの3.1kmでギアチェンジすると伊藤が付いていけず、そのまま3区の吉川(ラ3=那須拓陽)にタスキを託した。タイムは1時間5分57秒。2009年にモグス(当時山学大)が記録した1時間6分4秒を上回り、前人未到の1時間5分台に突入した。東洋大のユニフォームを着て走る最後の箱根で圧倒的な走りを見せ、当分塗り替えられないと思われる記録と人々に鮮烈な記憶を残してみせた。伝統ある鉄紺のタスキをかけ、エースとしてキャプテンとして最大の大仕事を全うした。
不安が自身を押し潰してしまったのか。3区の吉川は出雲、全日本と出走はない。不調で練習も満足に積めていなかった。そのなかで7位でタスキを受け取ると、創価大の原富と並走を続けた。しかし、3区特有の海風にあおられじわじわと後退していく。「故障して練習できていなかったのが自分のなかで不安」と話す吉川は、走りが苦しくなっていき自身を追い抜いていく他大に付いていけないまま、10位まで順位を落とした。なんとか挽回したい4区には渡邉(済4=吉原工)が選出。渡邉は2年時の箱根で7区を走り区間3位に入った実績を持つ。その後は1年半けがに苦しみ、今季の全日本で復帰した。ここで流れを変えなければシード権も危うい。力が入るところだがけがの影響か、後続の選手に追い抜かされ14位まで後退。途中顔を歪めふらつくようなシーンもありタスキの中継も危ぶまれ、小田原中継所手前では中大の池田にも抜かれてしまうかと思われた。その瞬間、渡邉の目に再び力が灯る。すんでの所で意地を見せ、中大に先行してタスキリレー。らしさは示すも、練習不足や準備不足で涙をのむこととなった。
チームの命運を託されたのは5区の宮下(工2=富士河口湖)。山を駆け上る柏原(H23年度済卒=富士通・現役引退)に憧れて東洋大に入学した宮下は、5区を志願し見事に勝ち取った。初めて箱根の山に挑戦するが、入りから飛ばしていく。ペース配分が心配されたが、なんのその。軽快に山を上っていくと、気付けば区間賞争いに名乗りを上げていた。出雲、全日本は満足のいく結果ではなかったが、その悔しさをぶつけるようにさらに前方との差を縮め3人抜きと区間新記録を樹立。「自分のなかでは1つ満足のいく結果となって良かった」と振り返るが、コース変更があったとはいえ"初代山の神"今井正人(当時順大)が69分台で走っていたことに触れ「タイムもまだまだ狙っていかなくてはいけない」と上を見据える。憧れの背中に近づけたという、確かな収穫があった。
相澤、宮下の区間新記録がありつつも、配置や選手の状態など様々な歯車が噛み合わず届かなかった往路3連覇。現在東洋大は11位に入っている。シード権にも届かない状況だ。しかし、このまま終わるわけにはいかない。復路は3年連続の6区に今西(済4=小林)が控え、9区には前回大会のリベンジに燃える大澤(済3=山形中央)が当日変更で入った。今日まで受け継がれてきた東洋大の歴史を、鉄紺の意地を、この復路で示す。それがこの歯車を噛み合わせる1番の近道のはずだ。さあ、その1秒をけずりだせ。
◼️コメント
・酒井監督
大エースが5分台を出して非常にそこは評価したいし、宮下の区間賞も初めての山での区間賞というのもすごい評価したい一方で、1区・3区・4区が誤算があってしまったというところが非常に悔やまれる結果かなと思う。2区・5区が走れているというところが復路のメンバーもしっかり自信を持って、終わったことを振り返ってもしょうがないので、前を見て少しでも順位を上げていきたいなと思っている。(復路に向け課題は)コンディションがすごくいいこともあると思うが、昨今の駅伝がオーバーペースが普通ペースになっている。これまでの常識に囚われないようなペースでいってもぶれないという心と体の準備も必要なのかなと思うが、ただやはり年間を通してやってきたとかいろんな直前の調子とか、しっかりオーバーペースにならないわけにはいかないがある程度攻めるつもりで復路にかんしてはいきたいと思っている。(宮下選手については)5区宮下は勝負できるというつもりで起用していた。すごく起伏に富んだコースの走り方がうまいのと、走りにすごい力強さがある。まだちょっとバランスが完成形ではないが、もっともっと強くなる要素を秘めた子だなと思っている。(宮下選手のどういうところに目をつけてスカウトしたのか)フィジカルの良さがまず目についたところ。高校の先生と話をしても非常にそのときから上りの適性が高いと、実際クロスカントリーの練習を見ても能力が高いなと思っていた。すごく期待をしていたので今年は出雲も全日本も起用したが、まだ本格的な駅伝はあまりやっていないのでここは通過点だと思っている。今日は昨年のタイムを更新して区間新記録ではあるが、やるなら今井くん超えを目指していってほしいなと思っている。どこのタイムを超えたら神様になるかわからないが、今井くんのタイムをしばらく目標にしていきたい。相澤はモグスの記録を破ったのはすごいなと。正直僕もここまで、あまり蓋をしてはいけないなと思うが相澤自身がモグスさんの記録に1秒でも近づくと、塩尻の記録を抜くということで僕はそこでいいかなと思ったが、モグス超えを自分で実践したというところがやはり箱根駅伝は本当に選手たちの能力が高いし可能性があるので、相澤は2区から世界へ行ってほしいし、宮下は5で大会の顔になるようなそういうランナーにこれからも飛躍してほしいと思う。あとはチームをもう1回立て直ししなきゃいけないので、復路からまずその第1歩を踏み出したいと思う。(1区からのハイペースを想定していたか)1時間1分台があんなに出ると思っていない。1時間1分台を出すのは結構大変。2区の岸本くん(青学大)の1年生の7分3秒も東洋大記録だが…。高校駅伝もニューイヤー駅伝もみんな好記録になっているから、1つのものさしを角度を常識を変えていく必要があるのかなと思っている。(シューズの影響はあるのか)あると思うがそれを生かすフィジカルやトレーニング等をしっかり各大学やっていることが、そういう準備が整った子が走るし走れない子はやっぱり3分で押していけないし、より技術的な要素等が必要になってくるのかなと思う。
・1区 西山和弥(総3=東農大二)
(レースプランは)最初の1kmは早めに入ってそしたら周りも早めに動くだろうと思っていた。それでレースが動いて、そこからは粘って粘ってのレースを考えていた。(実際のレースを振り返って)10kmのところで苦しくなった。そこから我慢ができなかった。(例年より速いペースで進んだが)オーバーペースと言われているペースが当たり前になってきている。そこに対応していかないといけない。(レース前監督からは)3年生がしっかりしないとだめだろという言葉をいただいた。(復路の選手に向けて)自分たちが流れを作れなかった。特に自分は1区でスタートから流れを作れなくて申し訳なかった。復路は全力でサポートするので本当に頑張ってもらいたいと思う。
・2区 相澤晃(済4=学法石川)
(レースプランは)自分のリズムで最初から最後まで走るというのが目標で、レースを楽しむことができればタイムも出ると思っていたので、最後の箱根で思い残すことがないように走ろうと思って走りました。(レースを振り返って)2年生のときに2区を走ってだいたいペース感覚というのはわかっていたので、そのときからどうけずりだせばいいかということだけを考えて走った。レースを振り返ってみると最初から結構足がきつかったが、東京国際の伊藤くんとしっかり前を追えたので20kmまで一緒に並走することができたし、最後の3.1kmは絶対に負けたくないという気持ちがあったので、そこでしっかり離すことができて良かったかなと思う。(タイムを意識したのは)1時間5分台が出ると思ったのは本当に20kmくらいのときで、15kmのときに給水があってタイムを見ていなかったのであまりよくわからなかったが、20kmで56分台でいけたのであと3.1kmを9分10秒でいっても区間記録でいけるという感じだったので、まあいけるかなと思った。(タスキを受け取ったとき)これが最後の箱根駅伝なんだなというふうに感じたし、西山と吉川にかんしては自分が初めて走ったときから3年連続で同じ往路を走ったメンバーだったので、今回3人の流れでタスキをつなぐのは初めてだったが、最後にそういったメンバーと一緒にタスキをつなげて良かったかなと思います。(往路の結果については)自分自身もチームをまとめてあげられれば良かったかなというのもあるし、自分は今年は結構頑張っても他の区間で走れないという駅伝が続いていたので、箱根でもそれが出てしまって来年以降は自分は卒業するのでエースに頼らないチームをつくっていってもらえればなというふうに思う。(復路に向けて)5区の宮下が区間新ですごく復路の選手も勇気をもらったと思うので、復路の選手は前半から積極的な走りで諦めずに前を追ってもらえればなと思う。
・3区 吉川洋次(ラ3=那須拓陽)
相澤さんがかなりいい位置で持ってきてくれた。昨年とは違ってかなり走りやすい状態でスタートすることができた。東京国際の留学生が後ろにいたが自分は惑わされることなくしっかり自分で設定したペースを守ろうと思って落ち着いて走った。練習を年間通して積めてなかったり三大駅伝を見ても故障でメンバー入りできてなかったり不十分な状態のままでのレースだった。かなり仕上げてきている他大の選手からすると自分みたいな中途半端な選手は浮いてしまうというか、勝負にならなかったなと率直に思った。(コンディションは)大会までの期間は食事面だったり、奥さんや監督、サポートの人にもかなり自分に尽くしてもらった。ものすごくいい環境で食事でも生活リズムもいい状態で生活できていた。走る前のコンディションとしてすごくいい状態で走ることができた。(監督からの指示は)さっきと同様で自分が走るプランを監督に伝えたら「その通りだから落ち着いて前を追えるように」ということと、「ラスト10km曲がってからの海岸沿いでペースダウンしないように、さらにペースアップできるように」と言われた。(長期間空いた三大駅伝はなにか違ったか)故障して練習出来ていなかったというのが自分のなかですごい不安な点というか。どうしてもこの1カ月間その不安が消えなかった。自分に何回言い聞かせようとしても気持ちがどうしてもぶれてしまったりという不安があった。そういう所もやはりレースに出てしまったのかなと。結果が出るのは必然だと思うので、準備が出来ていなかったというのが1番の反省点。もっともっとしなければいけないことも多いし、相澤さんがいい流れで持ってきてくれたのを止めてしまったというのは一生許されることではないと思っている。それでも本当に応援してくれる方はたくさんいると思う。そういう人たちのためにも迷惑をかけてしまった4年生だったり、監督のためにももう1度チームを見つめ直して、もう1度切り替えていい顔で終われればいいと思う。(復路へ向けて)正直自分より状態のいい人たちが復路に備えていると思う。自分は不甲斐ない走りをしてしまったがしっかりエールを送って、いい順位いい顔で走ってくれると信じている。自分はしっかり切り替えて応援を頑張りたい。
・5区 宮下隼人(工2=富士河口湖)
想定していたタイム通りでどの位置で来ても自分のペースでいこうと考えてレースに入った。思った以上に1kmから動いた。設定よりも少し速かったが、自分のなかでは全然きつくなかったので落とさずいける所までいこうとレースに入った。(タスキをもらったときは)特に自分は全日本で4年生に迷惑をかけている。その4年生である奏太さん(渡邉)からタスキを受け取り、また前の4人が一生懸命走ってくれたタスキがとても重く感じた。初めての箱根だったがとても身が引き締まる思いだった。(監督からの指示は)前も追っていけば見えるので練習通りで落ち着いて上っていこうと指示を受けた。(記録については)目標は71分台だった。30~40秒を切れたのはひとつ良かった。しかし初代山の神である今井正人さんだったりを考えるとコースは少し変わっているが69分台で知られている。タイムもまだまだ狙っていかなくてはいけないと思う。(5区に決まったのはいつか)一応自分が全日本終わった後に龍誠さん(田中、済3=遊学館)の調子が上がってこなかったら5区の準備をしようと思っていた。そこから準備を初めて何回か上りの練習もやって本格的に5区を走るだろうと正式に言われたのは1週間くらい前。しかし監督から練習などでの声掛けでは2週間くらい前から自分が5区でいくなという解釈はなんとなくしていた。(田中龍選手からアドバイスは)龍誠さんは2回走られているのでいろいろ細かく教えてもらった。やはり宮ノ下を過ぎてからもう1回ある上りがきついぞとか、下りは1回給水があってから上るけどすぐだからそこは我慢すれば上れるぞ、というアドバイスをいただいた。また15km過ぎの足の湯の給水のときは龍誠さんが待っているということだったので、下手な走りはできないかなと思って走った。(給水で声は掛けられたか)正直覚えてない。(5区へ向けて)全日本では長い距離になってフィジカルが抜けていたのが失速の原因だった。フィジカルを入れるのと、特に上りとなると下半身が上手く使えないとダメだと思うので下半身の強化を個人的にやってきた。(三大駅伝全て走ったことについて)個人の成績でいうと出雲、全日本では悔しい走りになってしまったので箱根では自分のなかではひとつ満足のいく結果となって良かったと思う。チームとしては復路もあるしまだ諦められないところがある。明日復路のメンバーには頑張って欲しい。(流れを変える走りをしたと思うが)自分がゴールした地点で10位、シード圏内に入ろうと思っていた。11位となったが前の拓大が見える位置で明日の復路がスタートする。まずは今西さんから昨年良い走りをしているので最低限見える位置でのゴールはできたと思う。(復路へ向けて)今西さんを初め、定方さんだったり力のある先輩が控えている。同級生である蝦夷森は自分の区間賞、区間新で「気合いが入った」と連絡がきたので期待している。1年生も初めての箱根だが自分も初めての箱根で走れた。良い練習ができている復路のメンバーなので頑張って欲しい。
TEXT=稲村真織
PHOTO=谷口奏生、加藤勇大、酒井菜摘、牧田のどか、廣瀬璃子