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復路の要である9区を走った前田義弘(済3=東洋大牛久)は前半から果敢に攻め、後半は苦しみながらも順位を7位まで押し上げ、8年ぶりに東洋大記録を塗り替えた。今季は3大駅伝を全て走り、5000m・1万mともに自己記録も更新したが、今の自分に満足はしていない。「今まで負けた選手全員に勝つ」。激動の今季から逆襲に燃える来季に向けて、新主将が今の思いを明かした。
写真:東洋大学/月刊陸上競技
前田義弘(取材日・1月15日、聞き手=宮谷美涼)
――東京箱根間往復大学駅伝競走(以下、箱根)を振り返っていかがですか
往路9位は少し予想外な展開でしたが、東洋らしいあきらめない走りを復路の選手が出来たのかなと思います。
――往路終了後、復路の選手とどのような話をされましたか
蝦夷森さんと「自分たちでなんとか3位以内をあきらめないでやっていこう」という話をしていました。
――蝦夷森選手が9位でタスキを持ってきた時の心境は
8区で蝦夷森さんが頑張っていたので、自分も頑張ろうと思いました。
――戸塚中継所で、“蝦夷森ポーズ”を真似していたことが話題になりました。どのような思いがありましたか
蝦夷森さんは昨年は怪我で出場できず、今年度も苦しい状況が続いていていましたが、最後は楽しんでほしいなという思いでやりました。
――蝦夷森選手はどのような方ですか
誰にでも優しく接してくれる方で、すごく話しかけやすくて、自分としても仲良くさせていただいていた先輩でした。
写真:東洋大学/月刊陸上競技
――レースプランは
後半勝負だと思って走っていました。自分は後半に失速してしまうというのが課題としてあったので、最初は抑えめにいって、後半に上げて落ちた人を抜かしていくというレースプランでした。
――レースを振り返って
前に東海大と帝京大がいて、また9位ということで、シード権争いということも考えないといけなかったので最初のうちに離しておかないといけないと思っていました。そのため最初追いついたことで最初の5kmを早く入ったため、レースプランとは違って、最初からガンガン攻めて後半耐えるというようなレースになりました。しかし、最後苦しい場面で監督が声を掛けてくださったり、今まで支えてくださった人たちのことを思い浮かべながら走ったことで、あきらめない走りができたのかなと思います。
――帝京大と東海大と集団走を繰り広げていた時の心境は
自分のこれまでの練習の過程を信じて、絶対自分の方がやってきているという自信はあったので、負けるはずはないと思って、攻めて走りました。
――最後には平林選手(国学大)が浮上し、7位でタスキを渡しました。後半の走り振り返っていかがですか
まだ自分の力不足と言うところで、15〜20kmのラップが、15分30秒くらいかかってしまいました。後半をもう少し速く走っていれば、平林選手にも抜かれることはなかったですし、そこは自分の力として受け止めて、来年度の自分の課題とします。
――今回の走りで良かった点、課題点は
良かった点は、過去2年間の箱根駅伝は「結構苦しいな」と思って走っていましたが、今回はレースを楽しめたのかなと思います。課題としては、1時間8分59秒というタイムで走れましたが、青学大の中村選手が1時間7分15秒で走ったりと優勝チームとの差をすごく感じました。来年は最後の箱根駅伝になるので、今まで負けた選手全員に勝つんだという気持ちで1年練習に取り組んでいきたいなと思います。
――9区の東洋大新記録を更新しました
練習の状況的にはそこは最低ラインだと考えていたので、そのタイムが出て嬉しいというよりかは、自分より速い選手がたくさんいるので、そこまで満足できるタイムではないのかなと思います。
最低タイムとして掲げていたのは、1時間9分00秒でしたので、最低ラインでは走れたのかなと思います。
写真:東洋大学/月刊陸上競技
――今回はどのような思いで挑みましたか
この箱根駅伝で覚醒してやるぞという気持ちで走りました。
――横浜駅前での石田選手が給水ではどのような声掛けを
「楽しんでください」と言われました。
――石田選手はどのような後輩でしょうか
世界を見据えている選手です。オンオフがしっかりしていて、やる時は本当に集中してやります。
――今回のチームの結果について
目指していたのは3位以内だったので、満足していません。来年度、最後の年となるので、優勝して酒井監督を胴上げできるように、最後の1年間チームのために頑張っていきたいと思います。
――走っている間、酒井監督からはどのような声掛けがありましたか
最初の方は「いいぞ」みたいな感じだったんですけど、やはり後半ラップが落ちてきたので、そこからは「自分を追い込んでいけ」といった感じでした。最後は「清野が走りやすい位置で」という言葉をいただいて、頑張ることができました。
――10区の清野選手が4位まで順位を上げました。同級生の活躍をどう見ていましたか
清野は誰よりも練習する選手ですし、自分も尊敬している人の1人であるので、素直にすごく嬉しいです。そして自分も清野に負けてられないなという思いで最後のゴールシーンを見ていました。
1年次の男鹿駅伝
――箱根後、酒井監督からどのような話をいただきましたか
これまで以上に厳しさを持って、競技に対しての姿勢を変えないと青学大に勝てないと言われました。自分もそうだと思いますし、上を目指すチームを作る上で、ここの1、2、3月は大切だと思うので、学生、監督、スタッフで一致団結していいチームを作っていきたいと思います。
――酒井監督はどのような方でしょうか
一つ一つのことを丁寧に説明してくださいますし、人として大事なところを時間をかけて指導をしてくださいます。自分の尊敬する方なので、最後の1年、いい結果で監督に喜んでいただけるように頑張っていきたいと思います。
――今回の箱根駅伝で東洋大牛久高校出身の選手が3人出場しました
佐藤真優は小学校から一緒で、同じチームとしてタスキをつなげたことは嬉しいことだなと思います。木本に関しては、高校時代の苦しい時期も一緒に乗り越えてきた仲だったので、故障続きで苦しい思いをしているところを見てきた分、今回の箱根駅伝に関しては本人も苦しい走りになりましたが、同じ高校の人間として「木本の分も挽回してやるぞ」という気持ちで走りました。
――出雲全日本大学選抜駅伝競争(以下、出雲)、全日本大学駅伝対校選手権大会(以下、全日本)を振り返っていかがでしたか
出雲駅伝の3位は、暑い中のレースでしたが、東京五輪での池田(R2年度済卒=旭化成)さん、川野(R2年度総卒=旭化成)さんの遮熱対策のノウハウを監督の奥さんや、監督、マネージャーさんに教えていただいて、万全の準備で出雲駅伝に挑めたので、つかみ取った3位だったと思います。全日本では、自分が2区でチームを流れに乗せることをできなかったことが原因だと思っています。またブレーキもある区間が多かったので、1つのミスがシード落ちまでいってしまうと分かりました。そこから走力だけではなくて、チームとしての状況をしっかり受け止めて、箱根ではこのままでは終われないという気持ちでやってきました。
――全日本の後、チームとしてやってきたことは
宮下主将を中心に、朝練を早くから取り組む人が増えました。そして12月の合宿の際に、酒井監督や奥さんから東洋大学の先輩が築いてきた歴史というものを教えていただいて、先輩たちと比べて自分達に何が足りないのかということをもう1度考える機会があって、それでチームに雰囲気が出てきたのかなと思います。
写真:陸上競技部長距離部門
――今年度は3大駅伝全て出走しましたが手応えはいかがでしたか
全日本大学駅伝であまりいい走りができなくて、このままでは箱根も自分のところで流れを止めてしまうなということを感じていました。自分自身、練習はかなり積んでいたので自分が貢献しないとなという気持ちでした。箱根では、100点満点の走りではなかったですが、今後自信につながる大会ではあったので、来年度に向けて飛躍できる一歩は踏み出せたのかなと思います。
――5000m、1万mでは自己ベストを更新しました
自己ベストは更新できましたが今の学生のレベルでいうとまだまだです。1万mだったら1分程度縮めるくらいの取り組みをして、他大学と戦っていけるような戦力を自分だけではなく、チームとして構築していけたらなと思います。
――今年度は3年生で副将を務めました。副将として意識していたことはありましたか
4年生の方も少なくて、宮下さんも故障していたので、練習を積極的に引っ張ったりとか、走れていない選手に積極的に声かけしたりすることを意識してやっていました。
――前田選手自身どのような性格でしょうか
優しいと言われることは多いですけど、チームをまとめていく上では、厳しさも必要だと思っています。来年は4年生としてまとめていく立場になると思うので、優しさだけではなくて、今から厳しさを持ってチームを良くするために動いていきたいなと思います。
――宮下主将率いる今年度のチームを振り返って
最初は関東インカレとかも全くダメで、一人一人チームとして危機感がありました。しかし箱根駅伝前の最後の最後でキャプテンが一番最初に練習に出てくる姿を見て、チームがまとまったきっかけの一つであったと思います。背中で見せてくれたキャプテンでした。
――4年生に一言お願いします
最後の箱根駅伝に対するなんとかしないといけないという意識の高さだったり、4年生としての意地というところを間近で見させてもらってかっこいいなと思いましたし、自分たちも今年4位だったので、来年それ以上の成績を残せるように頑張ります。
――ラストイヤーにかける意気込みを教えてください
大学4年間締めくくりの年となるので、一日一日後悔がないように、そして最後の箱根駅伝が終わった後に「いい4年間だった」と胸を張って言えるような1年間の取り組みをしていきたいと思います。
大学陸上界で、走りで存在感を出せるように今年1年間頑張っていきたいなと思います。
写真:陸上競技部長距離部門
◆前田義弘(まえだ・よしひろ)
生年月日/2000・6・5
血液型/B型
自身の強み/粘り
PHOTO=長枝萌華
※弊部撮影写真はコロナ禍以前のものを掲載しております。