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JFA天皇杯第105回全日本サッカー選手権大会 第2回戦 東洋大VS柏レイソル
6月11日(水) 三協フロンテアスタジアム
◯東洋大2-0柏レイソル
《得点者》(アシスト)
107分 山之内 佑成
120+1分 依田 悠希(相澤亮太)
▽GK
磐井 稜真(国2=東京Vユース)
▽DF
荒井 凉(国4=日本大藤沢)
岡部 タリクカナイ颯斗(国1=市立船橋)→102分 山本 虎(国2=青森山田)
福原 陽向(国4=鹿島Y)
山之内 佑成(国4=JFAアカデミー)
▽MF
田制 裕作(国4=柏U-18)→81分 仲野 隼人(国4=三菱浦和SC)
鍋島 暖歩(国4=長崎U-18)→75分 西村 龍留(国3=柏U-18)
湯之前 匡央(国4=柏U-18)→81分 相澤 亮太(国4=大宮U18)
村上 力己(国4=尚志)→78分 依田 悠希(国3=三菱養和SCユース )
宮本 新(経2=横浜FC) →67分 大橋 斗唯(国3=柏U-18)
▽FW
髙橋 輝(国3=大宮U18)
(以下、天皇杯)第2回戦が、柏レイソルの本拠地で行われた。当時J1リーグ4位の柏レイソルと昨年度インカレ王者が天皇杯で一戦を交える。あこがれの選手たちとの試合に熱のこもったプレーをみせた東洋大はカウンターをねらったプレーでDF山之内とFW依田が2ゴール。また、GK磐井をはじめとする守備の力が光り、見事クリーンシートで試合を終え、J1相手に大金星をあげた。
J1の柏レイソルと東洋大学が天皇杯の舞台で激突。天皇杯といえば、サッカー界で指折りの大会の一つ。プロとアマチュアが対決する、夢と挑戦の舞台。そんな大きな舞台で、東洋大学が見せたのは、奇跡でも偶然でもない、全員でつかみとった“勝利”だった。大学生がプロに勝ったという話だけではない。夢を追い、努力を重ね、仲間を信じ、自分の力を信じて挑んだ選手たちが、自分たちの“可能性”を証明した試合である。
選手たちの夢・目標であるJリーグとの一戦。「この日を待っていた」そんな思いが背中からひしひしと伝わる中、ホイッスルとともに選手がコートへインする試合前の選手たちは緊張しているように見えたが、試合開始の合図とともにその硬い雰囲気は一変する。試合開始からボールを持ち、駆け出す選手たち。そこに迷いはない。しかし柏レイソルは安定したプレーで東洋大の動きを封じ、確実なパス回しでボールの主導権を握ってしまう。相手は東洋大選手らが目標としているプロサッカー選手。攻撃の迫力も、精度も、スピードもハイレベルな中、最後の砦となった磐井が見せた、開始2分。相手選手が距離を詰め、ゴールに向けてシュートを放つと岩井が瞬時に反応し防ぎきるり、焦りを見せないプレーで会場を沸かせた。その後、何度も東洋大DFを抜けた相手選手にゴールを狙われるも、素早い反応と冷静な見極めで数々のゴールを死守。見事な守りっぷりに柏レイソルサポーターも思わず声をこぼす。今試合、合計13本のシュートを止め、まさには神セーブを披露した磐井は、「自分はキーパーの中では小柄な方なので、ビルドアップのためにも冷静さを常に持ちたい。」と自身の課題ともにコメント。プレー中に彼が放つ後ろへの安心感。2年生という立場でも、「責任を持ってピッチに立ちたい」と話す彼の言葉には、すでにゴールキーパーとしての矜持(きょうじ)が宿っていた。
まぐれでもない、確実な守りを
試合は延長戦まで続く。90分を超え、選手たちの足にも疲労が見え始めた。FW髙橋(輝)はリーグ戦に続き、天皇杯も交代なしで今日まで挑んだ。後半に見せたGKとの直接対決。惜しくも防がれてしまうが、その気合の入ったシュートで足を足をつってしまう。それでも走りを止めず、切り替え次のボールを追った。「負けたくない」という強い思いが選手の立つピッチから伝わってくる延長戦。東洋大応援席では、選手たちへ応援歌を歌い、戦う背中へエールを送る。黄色に包まれた柏レイソルのスタジアムでファンサポーターの数も倍ほどに違う中での応援は、試合当初、完全アウェー感をかもし出していた。しかし、東洋大の応援は試合と共に次第に増して、柏の声に負けないエールを会場へ響かせていく。
(左)髙橋(右)松本
そんな仲間たちの応援に応えるように試合を動かしたのは、キャプテン山之内の一撃だった。延長後半の107分、均衡を破ったのは東洋大学のカウンター攻撃。右サイドからの展開に山之内が走り込み、相手選手が奪う間もなくこぼれ球を左足でダイレクトシュート。まっすぐな軌道でボールはネット左に吸い込まれ、東洋大に待望の先制点が入る。その瞬間、一直線に応援席へと駆け出し、仲間の前へ滑り込み歓喜のあまり大胆なゴールパフォーマンスを披露。スタンドの仲間たちへチーム全員の思いを届けた。先制点を機に、東洋大の勢いはさらに上がり貪欲に追加点を狙うプレーで、相手を圧倒。疲労も忘れ、ゴールを果敢に狙った120+2分に更なるチャンスが到来。DF西村から流れたボールに相澤が切り込み、シュートを放つ。力強く放たれたボールはゴール前にいたFW依田の体には足り、ゴールへ弾かれ見事2得点目を挙げる。思わぬ展開に東洋大応援席では驚きと歓喜の声が交差した。宿命だったのだろうか、柏レイソルのGKは松本健太(H31卒=柏レイソル)であった。その長身と長い手足で構える松本のゴールは、まるでスキがないような威圧感。東洋大もその固い守りを崩せず、延長戦まで得点を決めることができなかった。そんな松本の守りを破った2ゴールについて、「(東洋大は)本来はボールを握ってゲームをコントロールしようとするチームなので、勝利にこだわってやり方を変えてきたのだと思います。」と振り返った。2得点目を挙げた直後、試合終了のホイッスルが響き、感動をかみしめるように選手たちはその場に倒れこみ、笑顔を見せた。
先制点を決めた山之内
19番依田へ笑顔を向ける選手たち
柏レイソルでのプロ内定がすでに決まっている山之内の先制ゴール。長い怪我を休養期間を経て迎えた今試合は、自らの夢の第一歩が叶うそのチームと天皇杯で対戦するという運命的な一戦であった。「自分の力を、少し証明できたと思う」と語る山之内。プロとしての第一歩を踏み出す前に、目標のその背中を追いかけるだけではなく自ら足を並べに行くという彼の姿勢は、同じ目標を目指すものへ勇気をあたえたのではないだろうか。
井上監督は選手たちの活躍に、「非常に素晴らしい試合で、出来過ぎなくらいです。選手たちは持っているもの全てを出し切ってくれました。戦い方うんぬんの前に、この試合に臨む気持ちや熱量が表れたゲームだったと思います。」と温かい目を向ける。東洋大には、内定が決まっている山之内をはじめ、柏ユース出身のMF湯之前、MF田制、DF大橋、DF西村。また、千葉県出身のDF岡部など、柏レイソルに縁のある選手が多く在籍。幼少期から差kk-をやっていた彼らにとって柏レイソルはあこがれのチームだっただろう。そんな中での一戦は、出場選手誰一人としてこの試合に欠かせない存在だった。全員が同じ目標に向け、同じベクトルで着実にゴールを狙って得たこの勝利。東洋大に新たな歴史を刻むと意気込んでいた彼らは、その有言実行を果たし、見事新たな歴史を積み上げていった。
2ゴールにクリーンシートという完全勝利を果たした彼らは、第3回戦で昨年度卒業した稲村隼人(R6年卒=新潟アルビレックス)が序属するJ1新潟アルビレックスと対決。この試合に向けキャプテン山之内は「苦しい展開になると思う」と言いつつも、「隼人君からから学んだことたくさんあるので、そういうところをプレーに出してすこしでも成長した姿を見せながら、勝利したい」と前向きな意気込みを見せる。
天皇杯第3回戦まで、残り約一か月。その間には、公式戦も控えている。目の前の目標をまずはクリアする。東洋大サッカー部のそのポリシーはずっと変わらない。目の前の試合ひとつひとつを丁寧にこなし、勝利をつかみ取る彼らの挑戦はこれからも続く。
サポーターへの感謝を忘れない選手ら
◼️コメント
・山之内 佑成
ーー柏戦試合振り返って、自分にとってどういう試合だったか
自分の勝ちじゃないですけど、そういうところ証明少しができたんじゃないかなっていうのは思いました。このピッチでやること、ファンサポの迫力っていうのはすごいなって思いますね。
ーー試合の反響について
いろんな人から結構連絡とかはいただいて、結構いろんな人が見てるんだなって思いました。
ーー柏のスタッフから何か言われたか
言われました。ゴールパフォーマンスやりすぎじゃないかって笑
ーー次は新潟との対戦。稲村選手もいるチームとの対戦せの思い
ずっと大学でやって来たので、楽しみの反面、隼斗君から学んで来たことたくさんあるんで、そういうところをプレーで出して、少しでも成長した姿を見せながら、勝利をできれば良いなと思います。
ーーこの1ヶ月はどう過ごしたいんですか?
自分が大学入って総理大臣杯に参戦したことないんで、アミノでちゃんと勝って、チームとしても成長しながら、天皇杯、大臣杯に向けてさらにチームとしても僕としても成長できればいいかなと思います。
・磐井 稜真
ーーご自身の強みは
キーパーの中で小柄なので、足元のビルドアップの構築で違いを生み出さなきゃいけないと思っています。チームを組み立てていく上で支柱になる選手になりたいので、冷静さを常に持ち、終盤まで組み立ての部分で貢献していきたいです。
ーーその冷静な部分が光った天皇杯の感想
レイソルサポーターの声援の中でのプレーはサッカー人生で初めてでした。(柏レイソルの)サポーター側でプレーする時はワクワクしましたが、声も通らない中で、来たボールに対して冷静にやることを心がけていたので、判断もでき、選択も間違えることはなかったです。
初めての公式戦だったので多少の緊張はありましたが、いいデビューになったと思います。
ーー大学2年生で出場するというのはプレッシャーは
4年生や3年生がいる中で自分がピッチに立つのは責任があります。ゴールマウスを守るというのは大事なポジションであり、応援してくれる人達もいるので、皆のために背負って戦う部分は絶対忘れちゃいけないと思っています。
常に一緒に練習している仲間たちの思いを背負って戦っていきたいです。
ーー1年の目標は?
秋のアミノバイタルカップ、インカレ、公式リーグ戦が続いていくので、コンスタントに試合に絡んで、自分の価値を証明して、上の舞台に個人としてもチームとしても繋がっていけるようにやっていきたいです。
TEXT=森花菜 PHOTO=北村友樹