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2025年春。東洋大に、新たな精鋭が集結した──。そこで、スポトウ記者である“俺たち”が日々取材を重ねる各運動部の中から東洋大の未来を担うであろう8人の“怪物たち”を厳選。可能性と存在感を兼ね備えた唯一無二のルーキーズを、今ここに紹介する。次世代のスターを、見逃すな。
第7日目は硬式野球部の馬庭優太(総1=大社)。昨夏の全国高校野球選手権大会ではチームを93年ぶりの8強に導き、甲子園に旋風を巻き起こしたサウスポー。東洋大のユニフォームに袖を通し、新たな舞台”戦国東都”に挑む彼はピンチにも動じない冷静な投球を武器に、時折見せる笑顔とともにインタビューに答え、さらなる飛躍を誓った。
野球との出会い
野球との出会いは小学1年生の時。母親に連れられて訪れたのは、地元の少年野球チーム「高松野球スポーツ少年団」の体験練習だった。何気なく足を運んだこの日を境に、野球は馬庭の人生の中心となっていった。
「投げきる」覚悟で挑んだ、甲子園十一回
大社高校時代最後の夏。全国高校野球選手権大会第3回戦の相手は名門・早稲田実業高校だった。延長十一回の激闘は、多くの観客の胸を熱くさせた。 両者譲らぬ緊迫の展開の中、馬庭は一人でマウンドを守り続けた。投げた球数は149球。スライダー、カーブ、チェンジアップ。持ち球をフルに使いながら、粘り強く腕を振り続けた。点を取られても崩れず、走者を背負っても怯まない。プレッシャーが高まるほど、むしろその気迫は増していた。そして、試合を決めたのは――馬庭のバットだった。延長十一回裏、無死満塁のチャンスで打席に立った。 そして渾身のスイングでライト前へサヨナラ打を放ち、自らの力で試合に終止符を打った。投打にわたる圧巻の活躍。この一戦で「エース」として、「勝負師」として、その名を全国へ実力を知らしめることとなった。
大社高校野球部・石飛監督の勧めで東洋大学へ
甲子園を沸かせたエースは、プロの道ではなく、大学進学を選んだ。他校からのスカウトもあったが、大社高校野球部・石飛監督の勧めもあり、東洋大学のセレクションを受けて進学を決めた。東洋大・井上監督の印象について、馬庭は「最初はちょっと怖いイメージがありました」と振り返る。しかし、何度も会話を重ねるうちに印象は変わっていった。「今では優しくて、すごくいい監督だと思っています」と、笑顔で語ってくれた。
初登板後、井上監督と囲み取材に応じた馬庭
成長のカギは”自主性”と”理想の背中”
高校時代は決められたメニューに沿って練習をすることが多かった。だが今は違う。東洋大での練習では待っていては何も始まらない。自主練習の比重が大きい中で、限られた時間をどう使うか、何を磨くか。すべては自分次第だ。
馬庭自身も「自分でやらないと伸びない」と語るようにどれだけ自分を追い込めるかが成長のカギとなっている。
そんな彼の目指す選手像が、すぐそばにいる。投手としてのレベルの高さはもちろん、投手キャプテンとしての姿勢でもチームを引っ張る存在。それが島田舜也(総4=木更津総合)だ。下級生一人ひとりに丁寧に声をかけ、どのようなトレーニング、練習をするべきかを明確にしていく。「東洋のピッチャーを代表する存在」だと語る島田の背中から多くを学び、馬庭自身も強く動かされていた。
「野球をやりやすい環境を作ってくださって、いい練習環境だと思います」
そう語る表情には充実感がにじんでいた。雰囲気の良さと本気の空気が共存するチームだからこそ、日々の練習に意味があり、一球一球が馬庭の成長につながっている。
笑顔でスポトウの取材に応じる馬庭
神宮の舞台で公式戦デビュー
4月22日。相手は大学球界屈指の強豪・青山学院大学だった。そしてこの日、昨夏の甲子園を沸かせた男が、ついに東都の舞台で実戦デビューを果たした。試合は緊迫した展開となり、延長戦へ突入。七回途中からリリーフとしてマウンドを託された馬庭は、堂々とした立ち上がりでピンチを断ち切ると、その後もテンポよくアウトを積み重ねていく。終わってみれば、延長十一回まで無失点の快投。タイブレークという緊張感の中、得点圏に走者を背負いながらも粘り強く投げ続けた。試合は惜しくも勝利には届かなかったものの、1年生とは思えぬ投球で、馬庭は神宮のマウンドに存在感を刻み込んだ。
夢のその先に
「緩急を混ぜながら投球をして、ピンチでも抑えることができるっていうのが自分の持ち味かなと思います」
そう語る馬庭の視線は、すでに未来を見据えている。
「4年後には自分がエースになれるような存在になりたい」
憧れの先輩・島田の背中を追いかけながら、さらにその先を目指して歩みを進める。その先にあるのは、幼いころから思い描いてきた夢ーープロ野球選手になること。燃える闘志を胸に、一球一球に想いを込めながら、神宮のマウンドで腕を振り続ける。
決して平凡な道ではない。
だか、だからこそ挑む価値がある。
馬庭の挑戦は始まったばかりだ。未来のエースが、その第一歩を力強く踏み出している。
TEXT=山本華子
PHOTO=山本華子、高梨美遼、福田和奏