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あふれ出る涙が、どれだけ強い思いを持って挑んでいたのかを物語っていた。12月14日に行われた大学選手権3回戦。日本一を目指す東洋大は4連覇中の帝京大を相手に、後半途中までリードする異例の展開を演じた。王者をこれでもかと追い詰める好勝負を見せるも、16分から連続で得点を許し、最終スコアは14-29。初勝利は届かず、東洋大フィフティーンは涙を見せたが、主将が残したのは「勝つ鍵を渡した」という、未来へ希望を託す言葉だった。

福永監督(手前)と抱き合うヴァハフォラウ主将
ここまで、両校の間には明確な力の差があった。東洋大が関東大学リーグ戦1部に昇格した2022年以降、関東大学対抗戦に所属する帝京大とは2度対戦し、14―92(23年春季交流戦)、13―66(25年春季交流戦)といずれも大差で敗れている。しかし、「大学選手権はもう十分経験した。まずは(大学選手権)初勝利に向けて自分たちにフォーカスしていきたい」とヴァハフォラウ主将。王者を前に、チームの目標が揺らぐことはなかった。
その覚悟は、決戦のグラウンドで確かに刻まれた。立ち上がりから真紅のジャージーと互角の攻防を演じる。先制トライこそ許したがその6分後、15分に池渕紅志郎(総2=城東)がインゴールに駆け込み、左中間にトライを挙げた。コンバージョンも自ら沈め、スコアは7ー5。勝ち越しに成功し、リードを保ったまま試合を折り返す。

インゴールへ駆け込む池渕
「一歩でも、1点差でも勝てる気持ちを持って臨んだ」という後半は一転、試合は王者の色に染まった。再開後から自陣での展開が続き、苦しい時間帯に。何度も身を投じ、相手の決定機を防ぎ続けたが、16分のPG(ペナルティーゴール)で勝ち越しを許すと、24分から37分にかけて立て続けにトライを許してしまう。試合中断中にはFWで円陣を組み、「死ぬ気でいきましょう」と副主将のFL森山海宇オスティン(総4=目黒学院)やHO小泉柊人(済4=目黒学院)が活を入れるも、得点を奪えないまま試合はラストプレーへ。勝負はすでに帝京大に軍配が上がっていた。それでも、鉄紺戦士たちは最後の攻撃に転じる。敵陣エリアを獲得し、徐々にインゴールへ迫ると、チャンスが舞い込んできた。トライライン間近でのマイボールラインアウトに持ち込む。小泉のスローイングを確実に受け取り、モールを形成。FWが押し込み、最後は小泉がボールを沈め、最終スコアは14ー29。結果には影響しない1トライ。しかし、ノーサイドの笛が鳴るその瞬間まで、自分たちのラグビーを貫いた。

ラストプレーでトライを取りきった選手たち
ノーサイド後、観客の前に整列した選手たちは涙が止まらなかった。本気で「日本一」を目指してきたからだ。同じ屋根の下でともに過ごし、汗を流し、体をぶつけ合い続けた日々がある。全員が同じ方向を向き、意気込みを聞かれればどの選手も「日本一」の言葉を欠かさず口にしてきた。部員はわずか65人。100人を超えるチームがひしめく中、圧倒的に人数が少なく、大学選手権では1勝もしたことのないチームだ。それでも、大学ラグビーの歴史を変える挑戦を止めることはなかった。

太陽が照りつける日も、雨に打たれる日も、
日本一を掲げ、努力を積み重ねた
無念に散った夢。それでも、チームを1年間率いたヴァハフォラウ主将は、その思いを未来の鉄紺戦士たちに紡いだ。「最後のトライは自分たちのため。あとは後輩たちがやってくれる。自分たち4年生は、勝つ鍵を渡すことができました」。届かなかった日本一は次世代へ。勝利の鍵は、すでに彼らの手の中にある。

ノーサイド後、最後のハドルを終えた選手たち
◇福永昇三監督
ーー試合を振り返って
本日はこういった気候の中でお越しいただきありがとうございます。残念な結果ではありますけれども、選手は本当によくやり切ったとも思っています。 1年間、4年生は4年間、本当に全力を尽くして最後の試合まで戦い抜いたと思います。選手を本当に誇りに思います。
ーー前半はリードを奪って折り返しましたが、後半もう少し点を取りたかったというところでしょうか。
おっしゃる通りで、ポゼッションも含めて陣地、いろんなことを優位に進めていたと感じていました。ただ、得点が伸びなかったのが後半も含めて影響があったのかなと。も相手の意地もしっかりしていたというところです。
ーーここで勝つのは難しいと感じますか?
3回目ですけれど、今年のチームは4年生を含めて大学選手権にも慣れてきたところではありますし、自信を持って今日の試合も含めて臨んだところでありましたが、得点が結びつかなかったのはちょっと残念です。チームの未来につながるゲームだったと思います。
ーーリーグ戦終了後にFWを強化していくとおっしゃっていましたが、この2週間でのFWの評価をお願いします。
本当に評価できるに値するパフォーマンスを、FW中心に見せてくれたかなと思っています。スクラム、モール、ラインアウト。東洋のカラーであるセットプレーを中心に、相手の強みではあるところですが、私どもの強みでもありますし、十分に選手はやり切ったと思います。
ーー後半はカウンターからなど、いくつかトライの山を積まれたことに関して、ディフェンスを見てどう感じたか、どういう言葉をかけて送り出したかを教えてください。
本当に厳しいディフェンストレーニングであったり、スクラムの練習も積まされている中で、選手から「インゴールを守ろう」「家族の時間を守ろう」とか「仲間を守ろう」「セーブ・ユア・ブラザー」とか、そういう言葉をキャプテン中心に使っていて、本当に責任感があるプレーを随所に見せてくれて。選手を本当に誇りに思います。
◇ステファン・ヴァハフォラウ
ーー試合を振り返って
こんなレベルで戦えるのは当たり前じゃないということをみんな思って、最初の最後まで出し切って、最後の最後までやってくれて、本当に選手一人一人が東洋大学が大事にしている姿勢を見せてくれたと思います。 結果としてはあまりよろしくないかもしれないですけど、ここで終わりではないと思っています。本日はありがとうございました。
ーー惜しくも負けてしまいましたが、後半残せなかったものはどういったところだと感じていますか?
自分たち4年生含めて、3年前の先輩たちの代や、その前の代から、OBの人たちに対しては恩返しがちょっとできていないかなと思いますけれど、後輩はまだまだ強いし、強い人もたくさんいます。 これから伸びるチャンスがあると思うので、自分たち4年生が残したのは「勝つ鍵」を渡すことができたと思っています。
ーー前半リードして折り返して、ハーフタイムでは「いけるぞ」という雰囲気でしたか?
そうです。自分たちはチャレンジャーとして、もうチャレンジするしかないと。一歩でも、1点差でも勝てる気持ちを持って後半臨んだという感じです。
ーー後半はどういったビジョンで戦おうとしましたか?
ボールがスリッピーな状態で、前半あまりFWのモールでトライを取り切れていない場面が多かったので、しっかりと後半はFWで圧倒しようという気持ちになって(臨みました)。
ーー前半のゴール前の粘りなどを見せたことが、チームの財産になるかと思いますが、その自信はいかがですか?
最後、際の際まで体を張り続けてゴールラインを守り切るというのが一番大事で。何回かチャンスがあって取り切れていなかったという場面が多かったので、そのあと少し頑張ればいけるのかなと思います。 後輩たちは心の強い人しかいないので、きっとやってくれると思います。
ーーロスタイムで最後まで取り切ったトライというのは、どのような意味を持つでしょうか?
ペナルティを続けて、ショット(PG)いかないという場面で、絶対に取りきろうという気持ちがみんな強かったので。エンディングとしては、最後トライ取ったのは自分たちのためでもありますし、あとは後輩たちがやってくれるだけだと思います。
ーー残り15分くらいで選手がタンカで運ばれるときに円陣を組んでいましたが、あの時どんな話をしましたか?
「自陣でずっとプレーをしていて、東洋のできるだけ敵陣で自分たちの強みを出そう」と。「敵陣でプレーしましょう、ペナルティするのももったいないので、ノーペナルティでクリーンなラグビーの状態で敵陣でプレーしようぜ」という話をしました。 小泉(柊人)選手と森山(海宇オスティン)選手も「死ぬ気でいきましょう」という言葉をもらって、みんなもう一段階スイッチが入りました。
ーー大学選手権に出る強豪から、次はチャンピオンを目指すチームに活動の場を移されると思います。やってみて、今後東洋大学として勝っていくために必要な部分、伸ばしていきたいところはどういうところでしょうか?
本当にスクラム、モールというところで育って、今日のような強いFWになるというのが上位に行く条件になってくると思います。そこを継続して徹底していく。プラスアルファで、細かいミスがありましたけど、そこは継続してやっていくことが一番近道かなと思います。
ーー先ほど「勝つ鍵を渡した」とおっしゃっていましたが、この言葉の意味をもう少し詳しく教えていただけますか?
「あと一歩前進していればトライ取れる」という言葉があります。(力を)出し切るとか、「エンディングポイント」というところを、もうちょっと意識してやってくれれば。 今日のような試合は自分たちにはちょっとエンディングポイントのところが大事にしてトライ取れたのかなと思いますけれど、今日はそこの結果が出なかったので。後輩たちは自分たちより、もう一歩前へ出ていけると思います。
ーー「エンディングポイント」というのはエクスキュージョン(遂行力)とはまたちょっと違うのでしょうか?
エンディングポイントは、パスを放るときにフォローする、キャッチするときにハンズアップする、こぼれたボールをセービングする、そういう細かいところです。
TEXT=北川未藍 PHOTO=北川未藍、市澤結衣

