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2015.11.11
硬式野球

[硬式野球]志願の3連投で男泣き 原が残した最高の置き土産!東洋大7季ぶり1部復帰

平成27年度東都大学野球秋季1部2部入れ替え戦・駒大3回戦

11月10日(火) 神宮球場

東洋大10-1駒大

(イニングスコア)

3回戦

駒大

東洋大

X

10

(東洋大)

○原(2勝1敗)―後藤田

本塁打:小笠原1号(七回=ソロ)

二塁打:小笠原、後藤田



打順                     

守備

名前

(遊)

阿部健(営3=帝京)

(三)

田中将(営2=帝京)

(一)

中川(法1=PL学園)

(中)

笹川(営3=浦和学院)

(二)

林(営4=桐生一)

(右)

小笠原(営4=大社)

(指)

鳥居(営3=愛工大名電)


打指

西川元(営2=浦和学院)

(左)

安西(営3=聖光学院)

(捕)

後藤田(営4=東洋大姫路)



35

14

10


名前

○原(営4=東洋大姫路)

38




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1部復帰を決めた瞬間、涙を堪え切れなかった原


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彼らにとって昇格は、喜びよりも安堵の思いの方が強かった


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同期の増渕(右)との最後のキャッチボールを終えると、互いに抱き合って苦労をねぎらった


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「原に頼りきり」と言われ続けた打線が14安打10得点の大量援護で1部復帰を手繰り寄せた。



 待ち焦がれた瞬間がやってきた。1勝1敗で迎えた入れ替え戦第3戦は、打線爆発で大勝。2012年秋以来、7季ぶりの1部昇格を決めた。打線は入れ替え戦初スタメンの小笠原(営4=大社)が5打点を挙げる活躍などで宿敵・今永を5回KO。3連投の原(営4=東洋大姫路)が1失点完投勝利で見事にリベンジ。「後輩たちを1部でプレーさせる」1年間願い続けた悲願を叶えた。


 歓喜するわけでもない。声を上げることもない。それは、あまりに大きなプレッシャーと戦い続けた男らしい、最後の瞬間だった。「ほっとした。ああ、終わったんだなって。やっと肩の荷が下りた」。かつてリーグ5連覇を達成した王者が味わった、過去最長6季の2部暮らし。その責任の重さを物語るかのように、原はじっと泣き続けた。

 志願の先発だった。1回戦は8回1失点も今永とのエース対決に敗れた。続く2回戦も救援登板で4回2/3を投げ、「体にだるさはあった」という。それでも、井上コーチの「頭でいくか、後ろでいくか」の問いかけに迷わず前者を選んだ。「ここで先発しなかったら、今まで何のためにやってきたのかわからない」。決死の3連投へ、心を決めた。

「負けたら全部おれが責任を取る。だから思い切ってやってくれ。みんなを信じているから」。

 試合前、主将として円陣の輪の中心で原はそう言ってナインを奮い立たせた。後藤田(営4=東洋大姫路)は振り返る。「いつもそう思ってマウンドに立っていると思う。ただ、口に出したのは初めて。悔いを残したくなかったんだと思います」。主将の覚悟を感じ取った打線は火をふいた。五回までに8安打9得点の猛攻。入れ替え戦過去3試合で20イニング無得点に抑え込まれていた今永を、マウンドから引きずり下ろした。「これまでで一番みんなの気持ちが入っていた試合。守っているときはベンチも含めた全員で原を盛り立てて、攻撃では全員で1人の投手をのみこんだ」と後藤田は会心の表情を浮かべた。

 最後まで、相手を上回った。駒大打線は初戦で苦戦した左打者内角へのスライダーを封じるべく、打席のラインいっぱいに立ってきた。内角を厳しく突いたボールは、打者の膝元をかすめ序盤で3死球。それでも、「ここで引いたら負けだと思って」ひるむことなく攻め続けた。小学生のころ街灯もない近くの空き地を父・敏行さんが懐中電灯で照らしながら、ストライクゾーンを9分割したお手製の的を目掛けて投球練習を重ねた。コントロールには絶対の自信がある。三回以降は外に逃げる変化球も効果的に配球し、打者に狙いを絞らせなかった。

 東都では、2部で残した記録はすべて参考記録として扱われる。よって、原の大学通算勝利数は1勝。これまで数々の先輩方が担ってきた東洋大のエースとしては、間違いなく最少だ。だが、幾多の試練を乗り越え主将としてチームの1部復帰だけを目指して腕を振り抜いた2052球。7つの完封に、大一番で見せた無類の勝負強さ。そして入れ替え戦での3連投。記録には残らなくとも、原樹理は後世にも語り継がれる〝伝説のエース〟となった。


■コメント

・高橋監督

1から3年生は1部を経験していない。その点では原を中心に4年生の気持ちが強かったということかな。不安要素もあったが、1年間、原できたので最後も原でいこうと思った。疲れも当然あるし、球速も落ちていたけどよく放りましたよ。死球が続いて苦しいかなと思ったけど、そこからよく踏ん張った。打線もスイングが甘いと相当怒られてきたから今日はよく打った。今永をやっと打った。長かったね。前半はやばいかなと思ったけど、点を取ってからは球威が落ちた。でもよく投げたよ。3、4番が強かったときの東洋に近付いてきているから、来年も楽しみ。東洋の3、4番は怖いぞとなれば東都ももっとおもしろくなる。

3年間は長かった。6シーズンで2回しか勝てなかったんだから、2部の壁も厚いよ。大事なところで勝てなくて、日大や専修に置いていかれて寂しかった。すぐ落ちないように、打線は良いから、まずピッチャーを作らないと。また頑張りますよ。


・原(営4=東洋大姫路)

この1年間ずっとチームのため、監督のため、1つ下の学年から1部で試合ができるようになることだけを考えてきた。何が何でも1部に上げないと。早くこの状態から脱却させたい一心だった。初戦で負けていたので、それが全て。対今永というよりも、何としてもチームが勝つことだけを考えた。初戦は真っ直ぐとスライダーで強引に三振を取りにいっていた部分もあったが、今日は色んな球を使って的を絞らせないいつも通りの投球ができた。1年生のときはただ投げるだけだったけど、今は自分で投球を操ることができる。体の感覚は分からなかったけど、最後は気持ちだけで投げていた。日頃のピッチング練習が、ここまで持ちこたえさせてくれたと思う。来年からは、後輩たちもここ神宮で頑張ってくれると思うので、自分も負けないように頑張りたい。後輩が戦った直後(ナイター)で登板できることを楽しみにしている。(今永との投げ合いは)今後も意識はすると思う。その日がきたら負けないように、これからしっかり力を付けていきたい。


・林(営4=桐生一)

うれしいの一言しかありません。なにもチームに出来ていないので、チームのみんなに助けられました。自分が不甲斐なかったので、遊撃手の阿部にも助けられたりして、自分が(内野を)引っ張れなかったのが残念です。自分は神宮で(リーグ戦が)出来なかった。後輩たちには思う存分やってほしいと思う。小笠原も苦しんでいたが、(好成績を残して)今日の一日でいい大学生活になったのではないかなと思います。


・後藤田(営4=東洋大姫路)

高校から7年間の集大成。悔いのないようにやろうと思った。原の状態自体はそんなに良くなかったけれど、とにかく気持ちが入っていた。初戦ではあまり使わなかった左打者の外へ落ちるシュートを、昨日エサ撒きに使った。元々インコースに弱いというデータがあったのでそこをきっちり突きながら、手先が器用なので真っ直ぐをカット気味に投げるよう試合前に伝えた。今日はその全てを利用し、的を絞らせなかった。7年間は早かった。苦労の方が多かったと思う。大学入ってすぐ2部に落ちて、手術もしてあいつがどう立ち直るのか見てきた。主将になって責任感も生まれ、なんとか立ち直ってくれた。プロにいったらもっと厳しい世界が待っている。そこで負けないように頑張ってほしい。とりあえず、おつかれさんのひと言です。


・東洋大姫路高校 藤田明彦監督

OBとしても、とにかくうれしい。最高ですよ。本当は土曜日に帰る予定でしたが、帰れなかったですよ。やっぱりこの球場で野球をやらないと。原はよく頑張った。高校のときもそうでしたが、気持ちの強さが最後の最後に出るんじゃないでしょうか。大学へ行って良かった。人間的に足りない部分があったので、人として成長できるようにと高橋監督にお願いした。そこを伸ばすのは一番難しい。でも見事に成長してくれた。今は人の目を見てちゃんと話すし、挨拶もしっかりできる。それはすごくうれしいこと。高卒でプロ志望届を出していれば指名されていたかもしれない。でも、手術もしたし今ごろクビになっているかもわからない。そうした意味では、こうしてドラフト1位に値する人間になれたことは大きいですよ。


・ヤクルト・鳥原公二チーフスカウト

3連投は誰だって苦しい。当然1戦目の方が良かったが、悪い中でしっかりゲームを作るというのはプロでも大事なこと。入れ替え戦のすごいプレッシャーもかかる中、キャプテンとして1人でマウンドを守り抜く姿は素晴らしい。任されたところできっちり仕事をするという責任感を感じました。ここで勝たなきゃいけないという試合はプロでもある。そこで何を投げたらいいのか、どんな気持ちで臨めばいいのかを考えられる投手です。勝つための組み立てができる。投げたら抑える確率が高い。新人王も取れると思っているからの1位指名ですから。2部でなかなか日の目も浴びないところから、這い上がっていく根性もある。うちとしては先発をしてくれるのが願いだが、どんな場面でも勝つための投球をしてくれると思う。


TEXT=浜浦日向 PHOTO=千野翔汰郎、美馬蒔葉