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第97回関東大学サッカーリーグ戦1部第11節
7月22日(土) 東海大学湘南キャンパスサッカー場
東海大1-2東洋大
〈得点者〉(アシスト)
29分 小野田(高橋輝)
74分 荒井
〈出場メンバー〉
▽GK
川上康平(国4=JFAアカデミー)
▽DF
田頭亮太(国4=東福岡)
稲村隼翔(国3=前橋育英)→16分 荒井涼(国2=日大藤沢)
徳永祟人(国2=前橋育英)
山之内佑成(国2=JFAアカデミー)
▽MF
中山昂大 (国3=大宮U18)→90+3分 田制裕作(国2=柏U-18)
本間洋平(国4=札幌U-18)
湯之前匡央 (国2=柏U-18)→63分 増田鈴太郎(国3=東海大相模)
▽FW
小野田龍剛(国4=常葉大橘)→84分 富田英寿 (国4=柏U-18)
村上力己 (国2=尚志)→68分 梅津凜太郎 (国3=鹿島Y)
高橋輝 (国1=大宮U18)
決勝点を決め、試合後の勝利の舞でMVPに選ばれた荒井
左サイドを幾度となく突破し、クロスを上げ続けた高橋輝
同点ゴール後、素早くリスタートに向かう小野田
関東大学サッカーリーグ第11節(以下、リーグ戦)の相手は東海大。ここまで4試合勝ちが無い中で迎えたリーグ前半戦の最終節、ここで何としても勝利の二文字がほしいところ。東洋大は前半に自陣でのミスから失点してしまうものの、FW小野田の一撃で試合を振り出しに戻し、後半には前節、守備時のミスで失点の原因になってしまった荒井が決勝ゴール。ヒーローの座を自らの手でつかみ取った。
この試合に勝てば、リーグ戦の折り返しを5勝5敗1分けの五分で迎えられるという、優勝に向けて勝ち点3奪取が至上命題の中でキックオフ。ゲームは、ボールを保持しながら枚数をかけることで、分厚い攻撃をしようとする東洋大と、少ない手数でゴールに迫りたい東海大の意図が見える序盤に。普段はサイドの選手が目立つことの多い攻撃陣だが、今節で光ったのは小野田。ショートカウンターや相手の陣形が崩れきる前に「ストライカーとしてシュートを打つことを意識した」と常に得点を狙った。そんな小野田の姿勢が報われたのは29分。左サイドの広大なスペースにボールが出ると、高橋輝がスピードに乗って東海大側のゴールラインぎりぎりまで突破する。そこからのクロスをフリーな状態で受けた小野田は、ダイレクトで右足を振りぬき先制に成功した。20分にはビルドアップ時のつなぎのミスから失点したが、このゴールで再びゲームをイーブンに戻して見せる。高橋輝も試合後に「前半中に1点返せて、同点で終えたところが今日の勝因」と振り返った通り、得点後のチームのムードも上がってきた状態で前半を終えることに成功する。
後半、チームに久しぶりの勝ち点3を届ける殊勲の得点を挙げたのは、前節苦しんだルーキーDFだった。エンドが変わっても良い流れを維持しながら攻める東洋大は、73分に山之内が360度のターンで相手をかわし、シュート。GKに弾かれたこぼれを小野田が詰めるが、DFとポストに阻まれ、逆転弾とはならず。しかし、一瞬のため息の先には歓喜の瞬間が。ファーサイドに蹴られたCKを徳永が折り返す。それに反応した小野田がボールを落とすと「普段からあそこのスペースに入っている習慣がゴールに結びついた」とポジションを取っていた荒井が左足を一振り。ゴールインの瞬間、大喜びでベンチを飛び出す東洋大メンバーと崩れ落ちる東海大イレブン。数メートルの距離で分かれたあまりにも両極端な明暗。その輝きの先頭に立っていたのは、荒井だ。前節、ミスにより失点の起点となってしまっていた男は、試合前に井上監督から「ヘマしたからガクンと落ち込むよりは、もう一回出た時に、ちゃんと取り戻せるずぶとさを持って、フィールドに立ってほしい」と声を掛けられ奮起。「やってやるぞ」との思いが結びついた、執念のゴールだった。
終盤には東海大のロングスローやパワープレーに苦しんだものの、荒井や交代で入った富田を中心とした守りで、勝ち点を譲らない。タイムアップの笛が鳴った瞬間、4試合勝ちなしという長く暗いトンネルを抜けたイレブンの顔は輝いていた。この勝利で、リーグ戦の成績を五分に戻すことに成功した東洋大。右サイドでも左サイドでも遺憾なく自らの良さを発揮できる高橋輝や拓大戦と今節で「緊張もそんなにしなくなってきている」と語るルーキーの荒井。ここから真夏のタフな戦いが続くが、若い力の躍動を生かし、上位陣に食らいつく。
■コメント
・井上監督
ここ数試合勝ち点が取れてなかったので。選手たちには前期の最後に五分の成績に戻すというのを目の前の目標にして、勝ち点3をしっかりと取るゲームにしましょうと話した中で、形はどうであれ、そこを達成できたことに関しては、すごく良かったねという話をしました。アクシデントで選手が抜けたりなどがあった中で、交代で入った選手、しっかりと試合をクローズさせるために入れた選手。特に交代で途中からフィールドに入った選手はいい役割を担ってくれたのではないかなと。アクシデントに大崩れすることなく、スタートから無事に立っていた者も最後までゲームを締めてくれたし、試合に絡めなかった、応援してくれた選手たちも試合を支えてくれた。そのようなチームとしての勝ち点3が一番評価できることではないのかなと思います。
(富田選手の交代時、富田選手が指で枚数の指示を出していましたが、投入時の指示は)
東海大がたくさんの選手を9番の横に置いてきたので、2枚ターゲットがいる。その中で、そのまま4枚でCBはきちっと(相手に)付いたが、9番になかなか競り勝てなかった。なので、きちっとカバーリングに回れる枚数を増やそうということで、CBの間に富田を入れて、後ろを5バックの形にすることで厚みを持たせた。その代わり、前線でのプレッシャーが効かないので、長いボールをドンドン入れられるというのは覚悟の上で。そこは忍耐力のいる、最後の5分、10分。想定よりも長いロスタイムで、長いボールやロングスローという東海大の攻撃の特徴が出る時間を良くしのげたかなと思います。
(高橋輝選手を左サイドで起用した理由は)
前節、新井(悠太)が出ていたのですが、今節は出れないということで。高橋は前節右サイドでいい活躍をしていて、右にそのまま置こうか、それとも左に置いて違う選手を右に置くかと考えましたが、どちらに置いても力は十分に出せると思います。今節も彼のところからのいい崩しがたくさんあったので、右か左かについては彼自身も、我々もどちらかでなければいけない、というこだわりもない。今節のチーム編成としては、彼を左に置いて正解だったかなと思います。
(最後のボール非保持の時間帯でも彼のスピードからのカウンターは生きていた)
そうですね。
(高橋輝選手から、井上監督がセットプレーがカギになるとおっしゃっていたと聞きました。その判断をした理由は)
これまでの東海大の試合を見ているとセットプレーからの失点が多いチームだったので。我々は試合をこなすごとに攻撃の面では(セットプレーの)良さが出てきている状態にありました。その掛け合わせとしてセットプレーに特化して、相手のマンツーマンの守り方などを利用して得点につなげたいなと。逆に相手のロングスローだったり、相手もセットプレーには特徴があるので。攻守ともにセットプレーは今節の中でキーになるという話をしました。
(荒井選手が試合に緊張しなくなってきた、とおっしゃっていた。下の学年の選手を段々試合に出して、慣れさせていくのは就任時から変わらないことですか)
この試合の前に彼と話しましたが、前節初出場で、自分でも思っている以上に緊張していた。それで、自分の実力を出せなかったという話をしていた。ミスからの失点ということもありましたが、それで、これまでの彼の努力の全てが否定されるわけでは無い。ちゃんとメンタル的に戻ってきたら、スタートから使ってもいいと言っていたのですが、ちょっとまだ(試合前まで)へこんでいた感じに見えた。その話を試合の前にもして。本来だったら、なにくそと。試合に出れなかったら、そのような思いでやっていたはずなので。一回ミスしたから、ヘマしたからガクンと落ち込むよりは、もう一回出た時に、ちゃんと取り戻せるずぶとさを持って、フィールドに立ってほしいという話をしました。実際サイドは違いましたが、攻撃参加の回数も前よりも多かった。まだ改善点は多くありますが、へこんでいるところから、少し起き上がって前に一歩踏み出せている状況は、我々も望んでいる。そこは非常に良かったと思います。
(次節、折り返し後の最初の試合である国士館戦に向けて)
稲村のケガもそうですが、ケガ人も出てフィールドに立つ選手が代わってくる可能性もある。だからといって、大きく我々の戦い方が変わるかというと、そんなことはない。次の対国士館。昨年の総理大臣杯王者、今年のアミノ杯王者でもあるので、しっかりチャレンジができる20名、フィールドに出る11名を見極めながら。途中から入ってくる選手の役割も大きいので、関わる全員が共通理解を持って戦えるような準備をしたいなと思います。
・荒井涼(国2=日大藤沢)
スタメンではなかったのですが、稲村選手のケガで、開始10分くらいからの出場になった。前節自分は悔しい思いをしていたので、入った時にはやってやるぞという気持ちの方が強くて。その結果、最後自分が押し込むことができたので良かったなと思います。
(前節の後に本間主将からお話をいただいたという話を聞きましたが、内容は)
2失点に前回絡んで。その後に話されたのは、あそこ(失点シーン)で蹴るという決断を自分ではできたのですが、(そうしないと)今スタメンで出ている亮太君(田頭)と差が生まれないというか。だからあそこで蹴る選択をしたことは、悪くないと言われて、その後も下を向いていましたが、ずっと試合中に洋平君(本間)たちが話しかけてくれていました。
(その中で、今節決勝ゴール。今の感想は)
勝利に自分のゴールで結び付けられたのはうれしいし、前節のミスを挽回できるような点につながったので、本当に良かったなと思います。
(試合後の勝利の舞では最後のガッツポーズの役を務めていました。あの役目は初めてでしたか)
はい。初めてでした。
(ご自身の得点シーンを振り返って考えていたことを教えてください)
前日の練習でも同じようにCKのこぼれ球から決めたシーンがあって、CK時に絶対折り返してくると思っていた。そしたらしっかり折り返してくれて。後ろを振り返ったら自分のところにこぼれてきたので、普段からあそこのスペースに入っている習慣がゴールに結びついたのかなと。
(次節の国士大戦に向けて)
もう2試合出て、緊張もそんなにしなくなってきているので。自分の特長を出してチームの勝利に貢献したいなと思います。
・高橋輝 (国1=大宮U18)
前半自分たちのミスから失点しましたが、時間があったので、みんな慌ててなかったし、下も向いていなかった。その中で前半中に1点返せて、同点で終えたところが今日の勝因かなと思います。あのまま0-1で後半に入ってしまったら相手の戦い方も変わってしまっていた。後半に入って涼(荒井)が決めてくれて。セットプレーがこの試合のカギと言われていたので、セットプレーの流れで決めれたことはすごくポジティブに捉えていますし、勝利できたことが一番うれしいです。
(今節は左サイドでのプレーとなりました。プレーしていて違いは感じましたか)
いや、サイドが逆でも自分の特長を出すことは変わらないですし、自分のスピードを思う存分発揮できたかなと思います。
(ちなみに利き足は)
右ですね。
(カットインも今節は見られた)
そうですね。意識はしたのですが、スライディングされて防がれた部分もあったので、もう少しクオリティーを上げたいなと思います。
(ファウルで止められるシーンも多かったですが、あれはドリブラーの宿命ですか)
ファウルを受けること自体は好きっていうか、それで止められること自体は全然気にしていないです。ファウルでしかこの人は止められないんだなという感じでとらえているので、ネガティブには考えていないですね。ファウルで止められそうになっても、それを自分で振り払って強引に持っていくところと、倒れて時間を作るところは使い分けたいかなと。
(ファウルでセットプレーになればチャンスになる)
そうですね。
(左サイドでの先発を告げられたのはいつでしたか)
当日です。
(これまでに左サイドでのプレー経験は)
何回もあるのでそんなに不自由さは感じませんでした。
(同時に新人戦にも出場していますが、リーグ戦との違いは)
新人戦は1、2年生がメインで出ているので、リーグ戦に出ている自分が引っ張っていかなければいけないですし、新人戦で結果を示さなければいけないというのもあります。リーグ戦でもそれは変わらずに、1年だから先輩に付いていくわけではなくて、自分のプレーで東洋大を勢いづけたり。結果で示すところもそうですし。どちらも公式戦なので、同じマインドでプレーするように意識しています。
(国士大戦に向けて)
前期がこれで終わって五分で折り返すことができた。後期一発目のスタートはすごく大事だと思いますし、ここから上の順位に向けては勝たないといけないので。どんな状況でもチーム一丸になって勝ち点3を取れればいいかなと思います。
・小野田龍剛(国4=常葉大橘)
最近全然チームとして勝てていなかったので。早い時間帯に失点しましたけど、最終的に逆転で勝ち点3が取れたので、とても良かったです。
(いつもに比べて崩し切る前にシュートを打つシーンが目立った。シュートへの積極性は意識していましたか)
去年の調子が良いときにできていたことが、最近できなくなってきていたので、まずはストライカーとしてシュートを打つという事を意識して、徐々にコンディションも上がってきました。非常に良かったです。
(1点目を取る前にポスト直撃のシーンがありました。あそこで調子の良さは認識できた)
1点目が入った時ですかね。あそこで今日はいけそうだなという感じが出ました。
(普段の試合では、高いクロスが小野田選手に向かってくることが多い。今節ではアーリークロスで低めのボールが多く来ましたが、どちらのクロスがプレーしやすいですか)
身長があるタイプの選手ではないので、速くて低いボールが良くて。常にそれはサイドの子とコミュニケーションを取りながら、要求はしていました。
(今回の高橋輝選手のようなクロスはありがたかった)
そうですね。
(アーリークロスの時は相手守備陣をえぐった状態でクロスを上げてくれると受け手としてもありがたいですかね)
選手のタイプにもよるんですけど、高橋輝とか新井悠太(国3=前橋育英)だと深くまでえぐれるので、あの二人にはえぐってほしいですし、左利きの平田駿佑(国4=徳島Y)とかはめっちゃクロスが上手い選手なので、アーリーで上げてもらった方がいいですね。
(普段の試合から小野田選手のプレスは目立ちますが、ご自身の武器の一つですか)
武器として認識しているというよりも、上のレベルに行くと必然的な部分になってくると思うので。FWですけど、まずは守備から入るということは意識してやっています。
(2点目のシーン。調子が良かった今節はあそこで自分が決めきりたかった気持ちもあるか)
そうですね。試合を通して確実に3点は取れていた試合だったので。決めきりたかったですね。
(ここまでの試合と今節で一番違った部分はどこですか)
今までやってきたことが形で出てなかった中で、諦めず、心を折れずに今まで通りの練習プラス自分でどうしたらいいかと自主練をしていたので、それが今回の試合で3年生の時とかの好調だった自分を思い出させてくれたような気がします。目で見えないところでの自分の努力はすごく大切だなと思いました。
(自主練のメニューを教えてもらうことは可能ですか)
基本的に僕のメニューとしてシュートだったり。後はスプリントを中心にやっていて、FWとして90分スプリントできる能力が自分には足りないと思っている。だからスプリントを中心としたメニューが多いですね。
(そのメニューをこなしてきた結果が今節のゴール)
そうですね。試行錯誤(さくご)しながらやってきましたけど、最近になって自分に必要なメニューが分かってきたので、これからも続けていきたいなと思います。
(昨年室井彗佑(R4年度国卒=大宮アルディージャ)選手にインタビューした際も彼自身のスプリント能力が高いにもかかわらず、さらなる向上を求めていた。先輩のストイックさも自主練に生きているか)
去年の4年生はグラウンドに最後まで残っている選手も多くいましたし、サッカーに対する姿勢だったり取り組み方はすごく学んだと思います。
(次節の国士大に向けて)
国士大はアミノ杯で優勝していて勢いもあるので、気を引き締めて自分たちの目標であるインカレ出場に近づいていきたいです。
TEXT/PHOTO=髙橋生沙矢