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第108回日本陸上競技選手権大会・第40回U20日本陸上競技選手権
2024年6月27日(木)〜30日(日)
新潟・デンカビッグスワンスタジアム
日本選手権男子100m予選
7組 3着+3
1組 5着 成島 陽紀 10"44(風+0.1)
5組 1着 栁田 大輝 10"26(風+0.5)Q 準決勝進出
日本選手権男子100m準決勝
3組 2着+2
1組 2着 栁田 大輝 10"20(風−0.2)Q 決勝進出
日本選手権男子100m決勝
3位 栁田 大輝 10"14(風−0.2)
6月27日~30日にかけて第108回日本陸上競技選手権大会が新潟・デンカビッグスワンスタジアムで開催された。パリ五輪の、実質の最終選考となるこの大会で、100㍍に栁田大輝(文3=東農大二)が出場。大接戦の中、3位に入り3年連続の表彰台に。100㍍での代表権は得られなかったものの、リレーで代表に選出され、パリ内定へつながる結果となった。
パリ五輪をかけた4日間にわたるこの大会の最終種目は男子100㍍。陸上競技の花形であるこの種目に、東洋大からは、栁田大輝が出場した。世界選手権(22オレゴン、23ブタペスト)代表、2023年アジア選手権100㍍優勝、セイコーゴールデングランプリ100㍍優勝など、数々の栄光を手にし、着実に五輪への道を歩んできた栁田は、すでにこの種目の代表に内定しているサニブラウンアブデル ハキーム(東レ)に続く2人目の代表として最有力候補と評されていた。
100㍍のパリ五輪代表の枠は、先述の通り、すでにサニブラウンが内定しており、残りは2枠。参加標準記録である10“00を突破、もしくはワールドランキングでターゲットナンバーである56位内に入っていることが条件となり、そのうえで今大会の順位を考慮して選考される。日本選手権前の時点で、出場者の中でワールドランキングは最上位。ターゲットナンバー内に入っていたのは栁田と東田旺洋(関彰商事)だけだった。10“00を突破し、優勝すれば即内定だが、栁田と東田のみがこのタイムを突破できなくても、2位以内に入ればほぼ五輪内定は確実という状況下。期待がかかる中でのレースとなった。
プレッシャーの中、堂々とスタートラインに立った栁田
五輪に向けて他選手から一歩リードしていた栁田だが、予選、準決勝では順調に通過したものの、五輪がかかったこの大会ならではのプレッシャーを口にしていた。
迎えた決勝。張り詰める緊張感の中、8名の選手がスタートラインにそろった。スタートを告げるピストルの音とともに飛び出したのは、スタートダッシュが持ち味の坂井隆一郎(大阪ガス)。栁田も「意識してきた前半はうまくいった」と、良いスタートを切ると、加速し、徐々に追い上げる。2番手まで上がり、坂井をとらえたかと思われたが、最後の最後で東田の猛追を受け、3名がほとんど並んでゴール。目視ではわからないほどの僅差だった。向かい風0.2㍍の条件下、結果は坂井が10“129、東田が10”134、栁田は10“139。わずか0.01秒に3選手がひしめく大混戦となったが、栁田は惜しくも競り負け、3位。わずかに優勝には届かず、掴みかけた五輪への切符はお預けとなった。レース直後、「正直まだ受け止めきれない。」そう口を開いた栁田の目からは涙があふれた。
接戦を戦い抜いた栁田
2週間前に行われた日本学生個人選手権では、追い風参考記録ながら9”97を記録。自身初の9秒台を出して優勝した栁田は、日本選手権に向けて順調な日々を送っているかと思われたが、決してポジティブな気持ちだけでなかった。「いまいち寝られないような、そんな毎日だった。不安で仕方がない日もあった。」レース後、涙を流しながら栁田が語ったのは、この日までの日々の苦悩だった。大きな重圧に耐えながら進んできた栁田。その先でまた1つ、苦しい思いを抱えることに。それでも、「悔しがるのは今日だけにして、明日からまたやっていきたいなと思います。」と、パリ五輪への望みを託して、会場を去った。
それから4日後の7月4日。ついにパリ五輪内定者が発表された。坂井はワールドランキングで、ターゲットナンバー内に。よって、100㍍の代表には新たにサニブラウンと坂井、東田が入り、栁田は個人としての出場権は得られなかった。しかし、リレーの代表内定条件を満たしており、東洋大OBの桐生祥秀(H30度法卒=日本生命)とともに、リレーメンバーとして、五輪代表に選出。代表をめぐる戦いの瀬戸際に立たされた栁田だったが、積み重ねてきた功績が、パリへの道を繋げた。パリ五輪では、チームジャパンの一員として、リレーで2大会ぶりとなるメダル獲得を目指す。日本の歴史を刻む1人となれるか。あと一歩が届かなかった、個人種目代表への悔しさを力に変えて、2024年夏、日の丸を背負い世界へ駆ける。
◾️コメント
栁田 大輝
――レースを振り返って
正直まだ受け止めきれない。
――レースをむかえる心境は
僕だけじゃなくて、周りのいろんな人が僕のために動いてくれて、本当に、今日スタートラインに立って、僕が走るまで本当に完璧な準備ができる環境を用意していただけたので、優勝という形で返せなかったのが今はとても悔しいです。
――僅差でしたが
ぶっちぎりの1位で勝てなかった時点でダメなレースとは言わないですけど、僕の負けにはかわりないので。
――やりたいスタートはできたか
意識してきた前半はうまくいって、ほんとに最後の後半の部分が、また最後の最後につめの甘さがでたかなと。それに尽きるかなと思います。
――気持ちの部分は
東京の時に経験してますけど、オリンピックの選考会って考えたら、やっぱり学生個人(選手権)おわったくらいから、いまいち寝られないような、そんな毎日が続いていて。やっぱりオリンピックの年はかなりプレッシャーだなと肌で感じていたので。分かっていてもオリンピックって遠いなと感じています。
――まだどうなるかはわからないとは思うが、どういう思いでパリまでの期間を過ごすか
そうですね。すんなり代表権を取れないのは完全に僕が悪いので、あとは本当にどうなるかまったくわからないので。言われた通りに動くじゃないですけど、もし個人があるなら個人に向けてやりますし、リレーとなっても、もちろん走るつもりで準備したいなと思います。
――この大会のタイトルまで、近くて遠いみたいなところがあると思うが
難しいですね。やっぱり。でも正直、予選・準決勝と終わった段階で、土江先生とか、スタッフの方たちは全然心配していないと言ってくれたんですけど、走っている僕自身が不安に感じてしまう部分がどこかであったので、そこももう少し予選・準決勝でうまくやっていればよかったのかなと思います。
――悔しいと思いますが
準決勝から考えたら、よくやったというか、ちゃんとやるべきこと、やるべき動きができたかなと思います。だからこそ、最後の最後、勝ち切りたかったなと思います。
――予選・準決勝といまいちだったというのはどういった感覚だったか
調子はいいのに動かないみたいな、そんな感じで。でもスタッフの方々から、全く心配していないというように言われたので。あとは僕がどれだけ自信をもって臨めるかだと思っていた。決勝前のウォーミングアップの時点で、昨日のアップの時よりも明らかに動きがいいというのは僕自身も感じたので。だからこそ優勝したかったなと。
――後悔なく終わりたいと言っていたが
優勝ですんなり代表を視中に入れたかった。それが1番の後悔かもしれないんですけど。正直に言うと、オリンピックのトライアルが近づくにつれて、本当に不安で仕方ない日もあったので。今回というか、代表を取れなかったのが本当に悔しいです。
――この悔しさを晴らしてほしい。
もちろん。はい。この先どうなるかは全く分からないので、悔しがるのは今日だけにして、明日からまたやっていきたいなと思います。
※パリ2024オリンピック
4×100㍍R予選は日本時間8月8日18時35分〜、決勝は8月9日2時45分〜
TEXT=近藤結希、PHOTO=佐々木朋弥