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2025年春。東洋大に、新たな精鋭が集結した──。そこで、スポトウ記者である“俺たち”が日々取材を重ねる各運動部の中から東洋大の未来を担うであろう8人の“怪物たち”を厳選。可能性と存在感を兼ね備えた唯一無二のルーキーズを、今ここに紹介する。次世代のスターを、見逃すな。
第6日はボクシング部の宮田ゆう(営1=熊本工業)。高校で2度の全国制覇を果たし、世界のリングも経験した若き拳士が、いま“大学ボクシング”という新たなリングに足を踏み入れた。彼女の拳には、身体ひとつで闘い続ける覚悟があった。
「当てたい」から始まったボクシングの道
小・中学生時代は空手を習い、中学の部活は陸上部。スポーツ経験は多彩だった。そんな宮田が高校からボクシングを始めた理由は
「当てたかった」
ただの衝動だけでは終わらなかった。拳が交差する競技に強く惹かれ、熊本工業高でのボクシング人生が始まった。
※本人提供
完敗からの逆転劇!つかんだ「全国2冠」
高校1年の3月。宮田はついに全国の舞台に立った。ピン級(43~45キロ)で出場した第34回全国高等学校ボクシング選抜大会。初戦の相手は、同学年の岡部月香(前橋育英)。宮田は力を出しきれず、完敗。岡部はそのまま頂点に立った。
「何もできずに終わった。ずっと背中を追いかけて頑張った」
その悔しさが、宮田の原動力になった。
約1年後の12月、第2回全日本女子ジュニアボクシング選手権大会決勝で岡部と再戦。ついにリベンジを果たし、全国初タイトルをつかんだ。続く3月、第35回全国高等学校ボクシング選抜大会決勝で再び岡部と対戦。前年大会で敗れた悔しさをぶつけ、ピン級で全国2冠を手にした。
「増量」新たな挑戦と成長
高校3年、宮田は主戦場としていたピン級(43~45キロ)から、インターハイ出場条件に設定されたライトフライ級(45~48キロ)へ階級を上げて挑む決断をした。もともと44.5キロほどしかなかった身体に、あと2キロを乗せることは心身を追い込む過酷な挑戦だった。
「食べても食べても増えなくて。たくさんご飯を食べていました」
練習すれば1度に2~3キロは減る。それを上回る量を、とにかく食べ続けた。勝ちたい。その一心で体を作り変えていった彼女の努力は、準優勝という形で実を結んだ。
宮田の挑戦はさらに続き、10月、アメリカ・コロラドで開催されたWB世界U19選手権に日本代表として出場した。最小階級・48キロ級での挑戦だった。結果は初戦敗退。
試合後には、他国の選手とのスパーリングを経験。「パンチをもらいすぎて鼻血まみれになった。身長は変わらなくても、体の大きさやパンチの強さの違いを痛感した」と当時を振り返る宮田。その悔しさは、「体を鍛えて、パンチに重みをつけたい。もっと強くなりたい」という決意へと変わった。また1つの敗北が、彼女を強くした。
強さの源は「負けず嫌い」——大学で描く次のステージへ
宮田の拳に宿るのは、「絶対に負けたくない」という強い意志。その負けず嫌いな性格が、彼女をさらなるステージへと導いてきた。高校卒業後、「もっとレベルの高い環境で戦いたい」と東洋大学へ進学。入学前に参加した別府合宿では、大学生のフィジカルやパンチ力、技術の高さに圧倒されたが、「負けてたまるか」と闘志を燃やした。
大学では、「練習量は変わらないけど、中身がより濃くなった」と語る。その変化は試合にも表れている。常に足を動かしてパンチをよけていた以前のスタイルから、今では「来た瞬間によける」スタイルへと進化した。
ひたむきに積み重ねた日々が生むのは、自分へのプレッシャー。
「これだけ練習してきたんだから、負けられない」
その思いが、また拳を握らせる。その繰り返しが、宮田を強くしている。
刻んだ初陣。大学での第一歩
入学から約2カ月。5月25日、関東大学女子トーナメント戦で、宮田は大学公式戦の初リングに立った。相手は日本大学。1年生ながらも堂々と戦い、3ラウンドRSC勝利で決勝進出を果たした。
宮田が自信を持って挙げる武器は、右ストレート。「ジャブで距離を測らなくても、右が当たるのが自分の強み。近距離でも遠距離でも、飛び込んで当てられる」。小さい頃から習っていた空手で培ったスピードと、無駄のない直線的な動きが、その一撃にさらなる磨きをかけている。負けず嫌いな宮田の拳に宿るのは、積み重ねた努力と強い意志。この勢のまま、自分の距離とタイミングで次なるリングに挑む。
自分を超え、夢見る世界へ
宮田が見据えるのは、ロサンゼルス五輪の舞台。その夢の実現には、「体重」という大きな壁が立ちはだかる。
今の階級では出場できないため、増量して階級を上げる必要がある。さらに、減量して落としてくるパワー型の選手が多く、パンチの重さやフィジカル面でも厳しさは増す。それでも、彼女は言い切った。
「やれるところまで挑戦してみたい」
今、宮田が立つのは夢へと続く通過点。まずは、関東大学女子トーナメント戦ミニマム級での優勝。そして、冬の日本選手権での頂点を目指す。実力者ぞろいの東洋大で、最前線に立つことを目指して──その拳で、自分の未来を切り拓いていく。
TEXT/PHOTO=鎌形美希