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2025年春。東洋大に、新たな精鋭が集結した──。そこで、スポトウ記者である“俺たち”が日々取材を重ねる各運動部の中から東洋大の未来を担うであろう8人の“怪物たち”を厳選。可能性と存在感を兼ね備えた唯一無二のルーキーズを、今ここに紹介する。次世代のスターを、見逃すな。
第5日は水泳部の西川我咲(あさき・営1=豊川)。全国中学校水泳競技大会を400m個人メドレーで優勝を果たすと、高校2年時にはインターハイで表彰台を飾る。
昨夏のジュニアパシフィック選手権ではジュニアの日本代表として同種目の金メダルを獲得。そして3月に行われた日本選手権で2位に入賞、パリ五輪銀メダリストの松下知之(国2=宇都宮南)とともに世界選手権(以下、世界水泳)の代表選手に内定した。
とどまることを知らない“競泳界の新星“は世界の舞台で頂を目指す。
西川我咲
4泳法全てを泳ぎ、その過酷さから勝者は「キングオブスイマー」と称される400m個人メドレー。競泳の花形種目でもあり、昨年のパリ五輪ではレオン・マルシャン(フランス)が圧巻の泳ぎで世界記録を塗り替えたことも記憶に新しい。
東洋大水泳部はリオ五輪金メダリストの萩野公介(H27年度文卒)さんを始め、東京五輪メドレー2冠を達成した大橋悠依(H28年度国卒)さん、さらにパリ五輪で競泳界唯一のメダリストである松下など、平井伯昌監督の指導の下、世界に精通する選手を多く輩出してきた。
そしてこの春、新たに「キングオブスイマー」を志す西川我咲が、東洋大の門を叩いた。
豊川高校時代、入学した当初は環境に馴染めず、ベストを更新できない時期も経験。それでも1年生の頃から泳ぎこみ、地道に作り上げた土台を武器に、めきめきと頭角を現した。
1月に行われたコナミオープンでは松下を抑え、自己ベストで優勝。この好タイムに自信をつけた西川は、今年の世界水泳の代表選考会を兼ねる日本選手権に、高校3年の3月に挑戦した。
世界水泳の代表には派遣標準記録を突破した上位2名が選出される。決勝のレースは序盤から松下が引っ張る展開に。負けじと食らいつく西川の強みは最後の自由形、粘りのラストスパートで3位の選手と僅か0.16秒差を制し、見事世界水泳の出場権を勝ち取った。
レース後、代表を勝ち取った西川はガッツポーズ
レース後、喜びあふれる笑顔の中で安堵の表情を見せた西川。
「ほっとしました。最初は全然実感がありませんでした。本当に選ばれたのかなという感じで」
シニアで日本代表を初めてつかみ取り、積み上げてきた努力が実を結んだ3年間の集大成でもあった。
松下とともに内定を果たした西川(左)
憧れから目標へ。
世界大会の出場が決まり、注目を浴びる西川は4月から満を持して東洋大へ。
入学の決め手は多くの個人メドレーのメダリストが巣立っていっただけでなく、日本学生選手権(以下、インカレ)を見にいった際に雰囲気(ふんいき)がよかったからだと話す。
そんな西川の憧れは、やはり国内で同種目のトップを行く松下。大学入学以前から交流もあり、
「僕が日本で戦えるようになってきて本格的に水泳で頑張り始めた時に、1つの大きな背中でもありました」
今回の選手権でもパリ五輪で出した自己ベストを上回る圧倒的な泳ぎで優勝し、ともに代表に選ばれた松下。その大きすぎる背中は今や西川の憧れから目標に変わる。
「世界水泳は出るだけじゃなくて、選ばれたからには決勝に必ず残って松下さんとワンツーフィニッシュできたらと思います。1位は僕がなります」
松下の背中は西川の勝利への執念を燃やす原動力にもなっている。
そして世界水泳を終えると学生最大の大会、インカレが待っている。
インカレでの目標ももちろん
「目標は2位では嫌なので、松下さんに勝って優勝することです」
松下に追いつき、追い越す気合いは充分だ。憧れの先輩と挑む世界の舞台へ、この夏をさらに熱くするだろう。
西川(左)と松下、世界の舞台へ挑む
見据えるのはロス五輪で金メダル
それでも西川にとって、世界水泳出場は夢の始まりにすぎない。
4年間の目標を聞くと「ロサンゼルス五輪があるので東洋大在学中にしっかりオリンピックに出て、いい結果を残したい。メダルを狙って、ロスで金を取ります」と世界の頂点をすでに見据え、キングオブスイマーの道のりを着実に歩んでいる。
レース前の西川
実は世界を相手にする西川もどんなに小さな試合でも緊張するタイプだという。
「緊張はしますが、台に立ったレース直前はわくわくする」
緊張を味方につけ、本番を楽しむ気持ちを持っているのも西川の強さだ。負けず嫌いさと素直さを持ち合わせ、水泳への思いは真っ直ぐ。
世界のスタート台に立った時、どんな景色が見えてくるのか。世界と戦う準備は整っている。
憧れの背中とともに
TEXT/PHOTO=鈴木真央