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2025年春。東洋大に、新たな精鋭が集結した──。そこで、スポトウ記者である“俺たち”が日々取材を重ねる各運動部の中から東洋大の未来を担うであろう8人の“怪物たち”を厳選。可能性と存在感を兼ね備えた唯一無二のルーキーズを、今ここに紹介する。次世代のスターを、見逃すな。
第8日目は陸上競技部の大石亮太(法1=浜松開誠館)。400mを主戦場とする大石は、高校最後の年にインターハイで2位、U20日本選手権で3位に入り、世界選手権にも出場。世界を知った彼が、この春、鉄紺のユニフォームに袖を通した。すでに世代のトップで戦う大石は、ここ、東洋大でさらなる強さを手に入れようとしている。
夢を、現実に
鉄紺は、幼い頃からの憧れだった──。
2017年、当時東洋大の4年生だった桐生祥秀(H30年度法卒業=日本生命)が、100mで日本人初の9秒台を記録した。桐生が鉄紺をまとい、日本史上最速のスプリンターとなったのは、大石が小学生の頃だった。
「桐生さんが9秒台を出されたときから、日本一の大学だと思っていました。その時から、ずっと東洋大に入りたかったです」
鉄紺に憧れた少年は8年の時を経て、夢を、現実に。大石は今年、世代屈指の実績を引っ提げ、東洋大の門を叩いた。
悔しさを糧に飛躍した高校時代
大石の実力が開花したのは、高校時代。飛躍のきっかけは、先輩の存在だった。
「高校1年生のとき、3年生の先輩に憧れて部活を頑張っていました。声をかけてもらえて、成長できたと思っています」。その姿を追いかけ、大石は3年間で、確かな力をつけていった。
中でも印象に残っているレースに挙げるのが、高校2年の東海総体。自身初のインターハイ出場を決めたものの、わずか0.01秒差で2位に終わった。
「その年は調子もよくて、負けたことがなかったのに、そこで初めて負けてしまって…。悔しかったですね」
悔しさをバネに、大石はさらに練習を重ねた。翌年の東海総体では、リベンジを果たして優勝。インターハイでも、2位に輝いた。この結果も、自身は「ずっと日本一を目指していたので悔しかった」と振り返るが、その思いは世代のトップにまで上り詰めた証でもあった。
先輩とともに挑んだ世界のレース
その年のU20日本選手権では3位に入り、世界選手権の代表に選出。そこで同じく400mの代表に選ばれていたのが、白畑健太郎(法2=米沢中央)だった。
「白畑さんとは、世界選手権で同じ部屋で。ずっと東洋大の話も聞いたりしていました」。東洋大への進学を決めていた大石にとって、貴重な時間だった。
ともに世界の舞台に挑んだ彼ら。白畑は予選・準決勝と立て続けに自己ベストを塗り替え、決勝でも46”83の記録で5位入賞を果たした。
「世界で自己ベストを出して、入賞したところとか…。かっこいいです」。そうはにかむ今も、白畑は憧れの存在だという。
自身は遠征先で体調不良に見舞われ、思うような結果は残せなかったが、「世界の迫力を肌で感じて、これから世界で戦う上でいい経験になりました」と、大きな経験を得た高3の夏だった。
関東インカレでは、白畑とバトンをつないだ
東洋大で見つめる“自分の弱さ”
そして迎えた大学生活。圧倒的な強さを誇る400mブロックは選手層も厚く、部内での競争はし烈だ。各大学からの出場枠が決まっているインカレや、4×400mリレーのメンバー争いは激しくなるが、それでも東洋大へ進むことに迷いはなかった。
「不安は少しありましたが、自分は競い合うことが好きなので。そこで勝ち残って出たいという強い思いがあって、すぐに決めました」
憧れた東洋大での日々を歩み始めた大石。環境の変化は大きかった。
「高校のときは自分が一番速くて、練習も引っ張る側でした。でも大学に入って、強い先輩たちがたくさんいて。自分の弱さが浮き彫りになりました」
さらに上のレベルに身を置き、先輩たちを追う中で見つめる「自分の弱さ」。しかし、それは同時に“伸び代”でもあると大石は語る。
絶対的な強さを持つ先輩たちの中で、大石もまた、一歩ずつ前に進んでいる。
5月初旬に行われた静岡国際では、46″29の自己ベストをマーク。翌週の関東インカレでは1年生ながら、4×400mリレーで1走として優勝メンバーにも名を連ね、6月の日本インカレでも予選で1走を担った。
早くも鉄紺を背負って戦う大石だが、それでも本人は、この2か月を「思うようなレースができていない」と自己評価は厳しい。
静岡国際では、自己ベストを出した。それでも同じ組を走った平川慧(健2=コザ)が45″28で優勝。学生歴代5位の驚異的なタイムを叩き出したその背中は、1秒も遠かった。
日本インカレでは決勝のメンバー入りを逃し、応援席からレースを見守った。学生新記録を叩き出して3連覇を果たしたチームを見て、「自分が走っていないレースで、先輩方が目の前で学生新記録を出されて、すごいなと思う反面、悔しくて。歯がゆい思いをしました」。
応援席で見た、学生新記録
憧れを追いかけ、その先にある世界へ
400mで日本一の強さを誇る東洋大での日々は、大石の心に火を灯す。自身に求めるレベルも上がるが、それこそが大石の“強くなれる環境”だ。
憧れ、背中を追いながら、強くなってきた。ここには、追いかけるその“背中”がある。
まだ届かない背中が、大石をもっと強くする。
2028年、ロサンゼルス五輪。その年、大石は4年生になる。いずれ鉄紺を率いる存在として、チームの中心に立つ日が来るだろう。憧れを追い続けた日々の先に、いつかは憧れられる存在へ。
その先で、見せてほしい。
今の彼が追いかけている先輩たちすら、まだ見ぬ“その先の世界”を──。
TEXT/PHOTO=近藤結希