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東都大学野球秋季2部リーグ戦・拓大1回戦
10月4日(火) 等々力球場
〇東洋大3-0拓大
この日の細野の顔はずっと晴れやかだった
153球の完投完封勝利をあげた
何度もけん制を試みた
この日、グラウンドに姿を見せた細野(総3=東亜学園)は今季1番の笑顔を見せていた。これまでの憂わしげな面持ちは一切ない。幾度も訪れるピンチにも動じない姿に、拓大側が音をあげるほど。試合の終了を告げるサイレンが鳴るまで、細野が試合を握っていた。
今季4度目の先発を務めた細野は初回から三者で終え、後続に流れを作る。二回には、久しぶりのけん制も披露。「けん制でもう刺せない」と以前、自信なさげに語っていたが、四球で出した走者を、左腕で翻弄する姿に球場は早くも沸いた。
その後はボール先行のピッチングで試合を進め、途中には四球を与える場面も。それでも慌てることなく後を抑え、着実にアウトを取っていく。五回には相手の打球が足を直撃し、出塁を許すもなんのその。再び自分の網にかかった相手を一、二塁間で挟みこみ、拓大の攻撃を自ら食い止めた。2度の美技に拓大からは「けん制上手いなあ」と感嘆のため息が溢れ出た。
しかし六回、内野安打をきっかけに、この日最大のピンチが細野を襲う。1死満塁としても、顔色は変わらない。初めに、細野を見守るナインとアウトカウントを確認。そして、手を回し心を落ち着かせると、次を見逃し三振に。最後は「みんなが守っているから打たせればいい」と三ゴロに打ち取り、ピンチから脱出。この直後、細野は相手のバットを拾い、手渡すという気遣いを見せた。
味方から3点の援護をもらった細野は、この秋、制球が最も乱れやすい魔の八回に突入。登板前、心配する投手陣に「もうやばい」と不安を漏らすも、仲間を見つめる表情は晴れやかだった。松澤(営4=帝京)に「先頭が大事だからね」と見守られながら、マウンドに立つ。初球をストライクとすると、仲間から安堵の声が漏れた。この回、一度四球を与えるも、その後は得意とするスライダーで相手を打ち取る姿に、拓大は「スライダーのキレがえぐい」とお手上げ状態。東洋大のエースは最後までスコアボードに0を並べ、今季3勝目を手にした。
移動時間が長い等々力球場に強い苦手意識を持つ細野。この日は、相性の悪い球場での勝負だったが、153球を投げ切り今季2回目の完投完封勝利を達成。それでも杉本監督は、「結果的に0点だけど、すっきりしない」と首をかしげる。インタビューの度に「エースなんで」と力強く語る指揮官の期待に次も応えられるか。そうして細野は戦国東都の舞台で輝きを増し、さらに世間に名を轟かせるだろう。
TEXT/PHOTO=宮谷美涼