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選手権大会から1か月近く。すでに新チームが始動している。キャプテンを任されたのはタニエラ(総3=目黒学院)。バイスキャプテンには杉本(ラ3=東京)が就いた。齋藤(総4=目黒学院)主将の代から、次なるステージへ。今回は、そんなタニエラ、杉本に加え、ここまでチームを率いてきた齋藤、そして、タニエラ、齋藤とともにリーグ戦ベスト15に選出された神田(済4=東筑)へのインタビューをお届けする。
3日目は、2年間の浪人生活を経て、東洋大ラグビー部の門を叩いた神田悠作。2年間のブランクから入学当初は思うようなプレーができなかったという。苦い思い出として、1年時の入替戦出場が果たせなかった関東学院大戦を挙げた。そこから3年。春季大会までは「実はラグビーが好きではなかった」と明かした神田は、今シーズン5トライと目覚ましい活躍を遂げ、ベスト15にも選出された。挫折を糧に這い上がってきたトライゲッターの大学4年間とこれまでのラグビー人生、そして今後について迫る。(取材日・12月21日、聞き手=木村彩香)
ーー大学でラグビーを続けるにあたって、目標などはありましたか
自分は2年間浪人してからのスタートだったので、ブランクがあって筋力や体力などラグビーができる体になれるかという目標から始まりました。
ーー20年ぶりに入替戦に進出した直後の入学でしたが、どのように感じていましたか
波が来ているチームに入れて運がいいなと思いました。自分たちの代も頑張り屋さんや努力家が多くて、仲も良かったので、これからの東洋に影響を与えられる存在になりたいなと思いました。
ーーその年は入替戦に進めませんでしたが、どう感じていましたか
たしか入替戦決定の試合に10番で出させていただいたんですけど、負けた後に勝ちきれなくて4年生が泣いているのを見て、それが今自分が練習を頑張れる原動力になっています。
あの負けがあったからこそ、ここまで来られたかなと思っています。
ーー新型コロナによる活動制限はどのような期間でしたか
外に遊びに行けなくなったり、大学もオンラインになったりと今までにないことが起きたんですけど、その分ラグビーに集中できる環境になったので、ポジティブに捉えて自分のやるべきことをやれるいい機会になったかなと思います。
ーー2年目のリーグ戦で優勝を飾ったものの入替戦は中止となりましたが、どのような思いでしたか
あの時はちょうど12月頃にミーティングがあって、監督さんから「入替戦ができなくなった」と聞きました。4年生が悔しくてみんな泣いてて、その時の4年生は今の東洋大の基盤を作り上げてくれた方々が多くいた代だったので、そういった人たちに最後に1部昇格して終わらせてあげたかったのですが、チャンスすらもらえなかったのがショックで悔しかったし、当時の4年生の姿が何より悔しかったです。
ーー当時の3年生(現在の4年生)がメンバーに多く入っていたチームでしたが、どのような気持ちで昇格を目指していましたか
今年こそは必ず上がるというその気持ちが常にあり、昇格のチャンスすらなかった4年生の分まで結果を残すという2つを意識してラグビーに取り組んでいました。
ーー1部昇格が決まった瞬間はどのような気持ちでしたか
試合当日はとてもうれしくて、入替戦が終わった次の日とかに1部の試合を見ると、速くて、強くて、このレベルまでやれるようにまた練習やらなきゃなという気持ちが次の日からありました。
ーー4年生の力や気持ち、その一体感がすごく強いチームに見えましたが
本当に同期が自分は大好きで、浪人で2年間のブランクがあったのですが、グラウンドに行ったらジムに行ったら同期がいるという生活で、その姿に引っ張られて自分もここまで成長できたので、本当に感謝してもしきれないくらい強い気持ちがあります。
ーー同級生とチームについて話し合うなど、コミュニケーションは多かったですか
ミーティングみたいなのはなかったですが、練習に取り組む姿勢だったり、寮生活だったり、ひとりひとりの行動だったり意識が高く、チームの中に伝染できるような人間が多かったなというように感じました。
ーーリーグ戦を通して心がけたことは何ですか
チームとしては日本一になるために、全勝優勝してリーグ戦を制覇するというのがあったのと、個人的には大学ラストイヤーであったので、悔いが残らないようなプレーを、常に全力を出しきることを意識して試合に臨みました。
ーーベスト 15 への選出は、どのような点を評価されたと感じていますか
自分はボールを持って走るのが得意で好きでした。相手の隙を突いたトライで今シーズンでは5トライをあげました。自分が持ち出すことで、6番のタニエラや留学生らなどの強いランナーへのプレッシャーを減らした状態でパスができるので、自分をうまく使って得点につなげるといったプレーが評価されたのかなと思っています。
ーーだんだんと応援の声も大きくなっていった印象ですが、どう感じていましたか
めちゃめちゃありがたかったです。初回の東海大戦もそうですが、最終の立正大戦もスタンドから見ると分かるのですが、校歌を歌うときに人数が違くて。東洋の方がパンパンだったんですよ。この前の選手権の早稲田戦も、伝統校でファンやOBが多いので、真っ赤に染まるかなと思ったのですが、意外と東洋も負けてなくて。紺色の旗を持ってくれている方もたくさんいて、そのおかげでリラックスもできたし、トライを取った後の歓声などもああいったもので選手たちはどんどん上がっていくので、選手からしたらあの応援はすごくありがたかったです。
ーー対戦相手が早大と決まっての心境はいかがでしたか
特に意識は全員していなかったと思うのですが、自分たちのラグビーができれば勝てると思っていました。その点では早明どちらに当たっても、日本一になるにはいずれ当たる相手だったので。なんならボコボコにしてやるくらいの気持ちでいました。
ーー早大への対策については
もちろん相手の得意な攻撃パターンを分析して対策もしましたが、試合1週間前は自分たちにフォーカスして、自分たちが一番自信が持てるような練習をしていたので、対策というよりは自分たちにフォーカスして、やるべきことをやるという風に取り組みました。
ーーどこかにプレッシャーはありましたか
特に感じてなかったです。リーグ戦のチームが対抗戦の強豪と公式戦で対戦できるのは選手権くらいしかないので、そういった環境で伝統校・名門校と対戦できるのはラガーマンとして、本気でできるというのは楽しかったし、うれしかったです。
ーー改めて、選手権を振り返っていかがですか
負けたのは正直悔しくて、自分たちにも、自分たちのラグビーにも自信があって、4年間スタッフや仲間たちと積み上げてきたものは絶対間違っていないと思っていたので、そういった面で負けたことは悔しかったです。でも、あの場の経験含め、対抗戦のチームがどのようなラグビーをしてくるかというようないろんな経験ができたので、後輩たちにとってはプラスになった試合だったかなと思います。
ーー主務も務められましたが、いかがでしたか
正直めちゃめちゃ大変でした。今まで2部だったのでここまでの仕事がなくて、チケットの手配や応援メッセージもありがたいですが、すごい増えたので。選手と両立するのは大変でしたが、来年社会人になることを踏まえるといい経験ができたのかなと思います。
ーー主務を務めるにあたって、意識したことはありましたか
時間の使い方はうまくやろうという風に思っていました。例えば、YouTube見たりや携帯を触る時間があったら、練習をしたりちょっとずつ仕事をするなど、時間のかからないことをコツコツとやっていました。
ーー主務になって気づいたこと、変わったことなどはありましたか
変わったなと思うのは、小さなことに気付けるようになりました。大人の方と接することが増えたので、いい意味で緊張感があったおかげで学べることが多かったです。気を遣えるような考え方、見方ができるようになりました。
ーー東洋大ラグビー部の 4 年間を振り返って、一番の思い出、心残りなことは何ですか
思い出はたくさんあって決められないです…。強いて言うなら…1部昇格です!
心残りは1個明確に覚えていて、1年生の最後の関東学院大戦です。2年の浪人明けで思うように体が動かせなくて、今だから言えますが、その時あまりラグビーが好きじゃない中で試合に出ていました。タックルとかもいけなくて、相手から穴みたいに見られてて。みんなが試合で狙ってくるのが悔しくて。試合も負けてしまってより悔しかったです。その試合は自分の中で挫折というか、悔しい経験でした。
ーーラグビーが好きではなかったと先ほどおっしゃっていましたが、好きになったのは
今年の春くらいからです。自分の思うような体になってきて、トライもとれるようになってきました。春季大会くらいです。それまでは正直心の中できついなと思うことがあって、ラストイヤーということもありますが、それを抜きにしてもこの1年は楽しかったです。
ーー同級生の仲間へメッセージをお願いします
4年間心の底からありがとうと伝えたいです。みんながいなかったら自分はここまで絶対成長できていないし、4年間いろいろなことがあったけど、いい経験・結果も残せて、東洋の歴史に名を残すような代になるのをみんなと味わうことができたのは、自分にとって人生の中で忘れない4年間になって、それはみんなのおかげなので。心からありがとうと伝えたいです。
ーー後輩に期待することはありますか
後輩は自分たちの今年の結果を超えて、来年は必ず日本一になってほしいと思っています。今年は初めての1部で、選手権で会場の雰囲気や相手の強さ、速さだったりというのが、4年生のメンバーが多い代だったけど、試合を会場で見て感じることはあったと思うので、それを練習に活かして、練習を頑張ってほしいと思います。期待できることは、3年生は特にとにかく勢いのある代なので、ラスト1年間を特に横のつながりを大切にして、みんなで最後まで走りぬいて欲しいなと思います。
ーーこれまでのラグビー人生において、一番うれしかったこと、挫折は何ですか
特にうれしかったことは2個あります。1つ目は福岡県の中学選抜に選ばれて、その代で日本一になったことです。その時は初めて優勝という経験をしたので、今でもうれしかったのを覚えています。2つ目は高1の冬に部員が20人くらいしかいなくて、試合に出られるのが17人しかいない中、県大会で東福岡に負けて2位になりました。九州大会で4位になって、全国の春の選抜大会で何年振りかで東筑が出場して、そのメンバーに入れて試合ができたことがうれしくて、思い出です。他にも小中のスクールだったり、いろんな思い出があるのですが、結果から見るとこの2つが忘れられないです。
悔しかったことは、九州選抜のセレクションに行って落ちてしまったことがすごく悔しくて。初めてセレクションで落とされた経験だったので、すごい悔しかったです。
ーー大学時代の経験をどう生かしていきたいですか
この4年間学んだのは、監督の昇三さんがよくおっしゃっていたんですけど、「かっこいい男になれ」という言葉で、正直ラグビーよりも昇三さんが大事にされていたことで、外見ではなくて内面のハートの部分で人間力として素晴らしい人間になれということを言われていて。話すときに目を見て話すことだったり、挨拶する、ゴミが落ちていたら拾うなど、当たり前のことを当たり前にして、気付ける人間になるというのを4年間学んできたので。それは社会に出ても絶対必要だし、通用するというか必須条件だと思うので、今後も活かしていきたいなと思います
◇プロフィール◇
神田悠作(かんだ・ゆうさく)
身長・体重/170㌢・77㌔
◇インタビュー掲載日程◇
1月6日:タニエラ・ヴェア選手(2023年度キャプテン/リーグ戦ベスト15)
1月8日:齋藤良明慈縁選手(2022年度キャプテン/リーグ戦ベスト15)
◇東洋大学ラグビー部について◇
PHOTO=青木智哉、木村彩香