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2023年明治安田生命J2リーグ第25節
7月9日(日) 正田醤油スタジアム群馬
ザスパクサツ群馬2ー0大宮アルディージャ
〈得点者〉
18分 高橋
40分 川本
〈出場メンバー〉 (※数字は年齢、田頭は学部と学年、=後は前所属チーム)
▽GK
櫛引政敏(30=モンテディオ山形)
▽DF
酒井崇一(27=ロアッソ熊本)
城和隼颯(24=法大)
中塩大貴(26=横浜FC)
川上エドオジョン智慧(25=徳島ヴォルティス)→74分 田頭亮太(国4=東福岡)
▽MF
高橋勇利也(24=神大)
風間宏希(32=FC琉球)→74分 内田達也(31=東京ヴェルディ)
佐藤亮(25=ギラヴァンツ北九州)→74分 天笠泰輝(23=関大)
山中惇希(22=AC長野パルセイロ)→66分 北川柊斗(28=モンテディオ山形)
▽FW
川本梨誉(22=清水エスパルス)→85分 平松宗(30=SC相模原)
長倉幹樹(23=東京ユナイテッドFC)
関東大学サッカーリーグ9節・日大戦でクロスを上げる田頭
5月17日にJ2リーグ所属・ザスパクサツ群馬の特別指定選手となったDF田頭亮太(国4=東福岡) が、9日のJ2リーグ第25節・大宮戦でJリーグデビューを飾った。2点リードの74分から投入されるとファーストプレーから好タックルでボールを奪い、アディショナルタイムには決定機を創出するなど、プロでのプレーに"アジャスト"。群馬の大槻毅監督(50)からも練習で話されることが多いという「アジャスト」するプレーでサポーターの期待に応えて見せた。
多くのサッカー少年たちの目標である「Jリーグ」。その舞台に立つ権利を得た男のプレーからはサッカーを楽しむ気持ちがあふれていた。
チームには23節の徳島戦から呼ばれていたという田頭。熊本戦を挟んでの大宮戦は群馬のホーム開催で、正田醤油スタジアム群馬では初のベンチ入りに。コールや声援などを数多く送ってもらった田頭は「素晴らしいサポーター」と来季からプロ生活を始める群馬のサポーターに感謝の気持ちを見せた。
試合は9試合ぶりの勝ち点3を目指す群馬が、自陣から細かくパスを回す。群馬の最終ラインにボールがある時には、積極的にプレスをかけない戦術を取った大宮相手に、ゲームを支配。18分に川本のミドルのこぼれ球を高橋が詰め込み先制すると、40分にはCKを高橋がヘディング。相手GKが弾いたボールに先制点のきっかけを作った川本が反応し2点目を奪取する。
前半の内に2点を奪った群馬は、安全圏の3点目を狙い攻め続けるが追加点を挙げることはかなわず。降格を避ける為にも負けられない大宮も後半に盛り返しを見せ、少し勢いに陰りが見えた74分に大槻監督は3枚の選手を交代。ここで田頭が投入され、今季の東洋大サッカー部員では、新井悠太(国3=前橋育英)に次ぐ、2人目のJリーグ出場を果たした。
「夢に見ていた舞台に立つことができて本当にうれしかった」と日本のサッカー少年たちが夢見ても多くの者が届かない、選ばれた者のみが立てる緑の舞台に足を踏み入れる。
気合十分の田頭はファーストプレーから鋭いタックルでボールを奪う攻守を披露。ここで「結構やれるな」とプロでも自身のプレーが通用することを確信すると、マッチアップした泉澤仁(31)との対人も同サイドの山中や交代で入った北川と共に危なげなく抑えて見せた。
その後田頭は左サイドバック(SB)が上がった為に可変した3CBの一番右でプレーしたため、攻撃に絡むシーンはなかなか訪れなかったものの、アディショナルタイム2分、待ちに待った瞬間が。
相手のパスミスを高橋がそのまま北川へパス。北川が相手を背負った瞬間に、相手サイドバックを抜ける確信があった田頭は猛スピードでオーバーラップを始める。「来る、ではなくて"来い!"」との思いで叫びながらボールを欲した田頭に北川は絶妙なスルーパス。思惑通りのボールが来た田頭はそのまま上がり、マイナス方向に走り込んでいた平松にクロスを上げるものの、シュートは外れ、デビュー戦アシストはとはならなかった。
試合はそのまま群馬が逃げ切り、待望だった9試合ぶりの勝ち点3を手にする結果に。紅白戦を除いてはほぼ初めて群馬の一員としてプレーをした田頭。「一から学ぶことも多い」と群馬のサッカーに適応することの難しさを語りながらも、ピッチで躍動する姿からは、高度なレベルのサッカーを学べることに対する"楽しさ"も垣間見える。
3月にはデンソーカップチャレンジ関東A代表にも選出された
「自分が経験してきたサッカー観とまるっきり違う」。田頭は声を弾ませながら群馬での練習を振り返った。基本的に彼のポジションであるSBは、ピッチのサイドの部分を上下に走り回ることで、攻守にわたり貢献をするプレーが多い。しかし、群馬で求められるSBの役割は"トップ下"だと明かす。「群馬は(フォーメーションが)4ー4ー2なんですけど、攻撃の時は右肩上がりになって、2トップの1枚がトップ下なのは(一般的に)あると思うのですが、もう片方のトップ下はサイドバックがやるという形」。
この話を聞いた時には耳を疑う自分もいた。最近ではSBに求められる仕事も増加傾向にある。イングランドの名門・マンチェスターシティの監督、ジョゼップ・グアルディオラ(52)の提唱した偽サイドバックという戦術であれば、SBはボランチの位置に移動して中盤の役割もこなす必要がある。しかし、大槻監督の求めるSBはトップ下の位置に移動してプレーをするというもの。これはあまり聞いたことのないSB像だったからだ。
簡単には踏み込めない領域へのチャレンジ。田頭は必死にもがいた。東福岡高2年時まではFWやサイドハーフでプレーしていたというものの、「360度敵が来る中でのプレーと言うのはなかなか無かった」と未体験の感覚に戸惑いは隠さない。しかし、「アタッカーの経験があるからこそ、前を向いてからの選択だったりというのが生きてきています」とも語り、見えない答えを少しずつではあるがつかんできている。
腐らず、努力を続けてきた田頭の答えが今節でのプレーであり、初出場であることを感じさせないほど安定感のあるプレーであった。目指すは新時代のサイドバック。大学サッカーの舞台からまた一人、スター誕生となるか。要注目の選手だ。
■コメント
田頭亮太(国4=東福岡)
(ホームでの初のベンチ入りが決まった際の心境を教えてください)
23節の徳島戦で初めてベンチ入りして、次の熊本戦ではベンチから外れた。大宮戦では入れるかどうか分かりませんでしたが、熊本戦で(ベンチメンバーから外れても)腐らずにアピールした結果としてメンバーに入れたので率直にうれしかったです。
(群馬の選手の方々と一緒に毎回練習している形ですか)
大学の公式戦がある時は大学にいますが、大学での試合が無い時や(東洋大学の井上)監督が許す時に参加する形です。
(初めてJリーグのピッチに立った感想を教えてください)
サッカーを小さい頃からやってきて、夢に見ていた舞台に立つことができて、本当にうれしかった。緊張もしましたが、それよりもワクワクの方が勝っていて、もう...楽しかったです。
(緊張や興奮があると監督の指示などが入ってこないという話も耳にしますが、田頭選手はどうでしたか)
いざ名前を呼ばれて指示を聞くのですが、あの時はワクワクしすぎて早く出たいと思っていました。ですので指示はあんまり入ってきませんでした(笑)。
(試合後はサポーターの方々にも声をかけてもらったりはしましたか)
そうですね。僕はホーム(正田醤油スタジアム群馬)で初めてベンチ入りして、アップからコールをしてもらったりしました。実際に試合に入る時もすごく大きな声援が聞こえてきて。ほんとに素晴らしいサポーターがいらっしゃるなと思いました。
(そのような応援を受けると群馬を選んで良かったと思いますよね)
はい。思います。
(同じポジションの川上選手は同じ攻撃的サイドバックでも田頭選手とは違うドリブルで積極的に仕掛けるプレースタイル。田頭選手は後半、どのようにサイドバックとしてプレーしようと考えていましたか)
エドくん(川上選手)は、サイドのアタッカーの選手なのでドリブルが得意というのもあって、結構ドリブルをしていたと思うんですけど、僕は2ー0で勝っている状況でピッチに入ることになった。まずは失点しないことを意識して。機会があったら、自分はドリブルよりも周りを使って前にドンドン行くタイプなので、タイミング見て攻撃参加をしようと思って入りました。
(投入直後のファーストプレー。良いタックルでボールを奪いましたが、あそこで感覚をつかみましたか)
そうですね。結構やれるなとは思いました。
(群馬内定時のインタビューで右サイドが可変するサッカーだったから群馬を選んだとおっしゃっていましたが、今節でも群馬は最終ラインの枚数がよく変わっていましたね)
はい、そうです。選抜活動で指導してもらったスタッフの方に関東大学リーグで会うことがあるのですが、どのスタッフの方にも「大槻監督の求めるサイドバックは難しいよ」と言われていて。実際練習参加や試合でも難しいというか、今までやってきてないことばかりなので一から学ぶことは多い。それも楽しいです。
(練習で求められる難しさにはどのようなものがありますか)
群馬のサッカーは右肩上がりの可変式を取り入れていて。一般的な右肩上がりは後ろが4バックだとしても3枚で回すというのはどこのチームでもやっていることだと思う。でも、群馬の後ろを3にして回すというのは、最近だと(上がった)サイドバックがトップ下の位置に入って、参加することが多い。その時のボールの受け方だったりは、自分が今まで経験してきたサッカー観とはまるっきり違うもの。それでも、ちゃんとボールが回るような仕組みが作られていて、、、ほんとにすごいなと思います。
(トップ下の位置までサイドバックが来るのは確かにあまり見ませんよね)
群馬は(フォーメーションが)4ー4ー2なんですけど、攻撃の時は右肩上がりになって、2トップの1枚がトップ下なのは(一般的に)あると思うのですが、もう片方のトップ下はサイドバックがやるという形なので。新しいことにチャレンジしているという感じです。
(ちなみに田頭選手はサッカーを初めてずっとサイドバックでしたか)
いや、ずっとFWやサイドハーフをやっていて、高校3年生になる前にサイドバックに転向しました。
(アタッカーだった時の経験はトップ下の動きをやる際にも生きている)
僕のやっていたFWやサイドハーフのポジションはグラウンドでも外側のポジション。360度敵が来る中でプレーするというのは、なかなか無かった。それでもアタッカーの経験があるからこそ、前を向いてからの選択だったりというのが生きてきています。
(偽サイドバックともまた違いますよね)
そうですね。偽サイドバックはボランチの位置に入ると思うのですが、もう一個位置が高いので。
(大宮の泉澤選手とマッチアップした際の感想を教えてください)
泉澤選手はキャリアも長い選手ですし、キャリアの中でもあの人のドリブルはどのサイドバックも苦しめられてきたものだと思っている。いざ対峙(たいじ)してそのドリブルを受けた時に、分かっていてもテンポをずらされるというか。そのような自分にしかできない武器を持っているからこそプロでやれているのかなと思います。
(実際マッチアップする際は2対1で迎え入れることが多く見えました。守備時の意思疎通はしやすかったですか)
最初は山中選手、途中から北川選手と一緒に守備をしていましたが、最初は僕自身群馬であまり試合をしたことがなくて、紅白戦を除いたら今節が初の実戦でした。群馬の選手は今までずっとやり続けてきたことがあるから慣れていますが、僕からしたら全てが初めて。サイドハーフの山中選手と北川選手との意思疎通よりかは、僕が周りの選手の方やCBの酒井選手に指示されて、それを聞きながら守っていた感じです。
(聞きながらその場で合わせたのもレベルが高いプレーですよね)
それは(笑)。よく大槻監督は「アジャストする」という言葉を使うのですが、いくら対策を練っていても試合中何が起こるか分からない。そのような(アジャストする)能力も必要かなと思いますね。
(アディショナルタイムのチャンス創出のシーン。北川選手がボールを持った瞬間には田頭選手は上がりだしていた。パスが来る予感があったということですか)
相手の選手がミスして、高橋選手がボールをカットした。その後北川選手にボールが渡った瞬間に、パスが来るなではなく、"来い!!"と思いながら走っていました。自分のスピードがあれば相手のサイドバックを抜けるなという感覚があったので、北川選手にパスが回った段階でとにかくスプリントして、「ボール来い」という気持ちで叫んでいました。
(叫んでいたんですね)
そうですね。もう(ボール)ほしかったんで(笑)。
(実際にボールが来た時は自分を把握してくれているんだとうれしくなりますよね)
柊斗君(北川)はほんとに周りが見えている選手で、練習中からも自分が走っているところを見てくれている。それを信じて走りました。
(クロスの際にゴール側にいた長倉選手ではなく、マイナスでフリーの平松選手に上げていましたが、それは彼がフリーなのが確認できていた)
最初は相手のGKとDFの間にいる長倉選手に出そうとしましたが、自分のタッチが大きくなって出せないと判断した。それでマイナスを見たら平松選手が走ってきてくれていたので、そこを見て出しました。
(今回の試合、大宮では東洋大OBのMF高柳郁弥 (R4年度国卒)選手が出場していましたが、話はしましたか)
試合後に挨拶をしに行って、僕は後輩なので。大宮は今苦しんでいるから、和気あいあいと話すことはできませんでしたが、「Jリーグデビューおめでとう」というのと「これからも頑張って」と声をかけてもらいました。
(味方としてではなく相手として対峙する高柳選手はどのような存在でしたか)
大学の時から上手かったんで。上手いし走れるタイプ。相手にしたら厄介でしたね。後半の最後の方でも運動量は落ちないですし、ミスも少ない。郁(高柳選手)にボールが渡るだけで、DFのどこに(パスを)出してくるのか分からない選手でした。
(見てても、そこに出すんだ。というパスを出す視野が広い選手ですよね)
もう全部見えていると思います。
(東洋大時代にも高柳選手の視野の広さを感じることはありましたか)
ボールも取られないですし、郁の1番の良さは運動量だと思っていて。守備も攻撃もできるし、良い選手だと思います。
(大槻監督は熱いイメージがありますが、指導を受けてみての感想はありますか)
すごく選手思いな人だなという印象があります。熱い人ではあるのですが、その熱さは根性論ではなく、かなり緻密に戦力を練っていて。話を聞いているだけでもサッカーが上手くなりそうなくらい、あの人の考えではすこく高度なサッカーができていて、学ぶことしかないです。
TEXT=髙橋生沙矢 PHOTO=北川未藍