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東都大学野球 春季1部2部入替戦・駒大2回戦
6月24日(土) 神宮球場
○東洋大3-0駒大
2022年6月22日。当時1年だった島田舜也(総2=木更津総合)は最後に過酷な運命を背負わされ、どん底に落とされた。あの日から1年、神宮に宿る野球の神様は、再び聖地に現れた彼を出迎えた。
島田の公式戦デビューは昨春、「戦国東都」の醍醐味である入替戦1回戦。初登板は九回に2点を奪われ、さらに1人走者を置く状況。最終回に中大が息を吹き返し、若干不利な状況にも関わらず、わずか一球で併殺に打ち取り、島田にとって最高の幕開けとなった。
上々のデビューとなった
しかし、この喜びはわずか2日後に打ち消された。
1勝1敗で迎えた3戦目。東洋大は1点のみのリードで最終回を迎えたが、当時の4年が無死から2四球を与えてしまい、サヨナラのランナーを置く状況に。この場面でブルペンから現れたのが1年の島田だった。秋に戦う舞台は1部か2部か。この運命の行方を島田が握ることに。背後からは上級生からの熱いまなざし、スタンドからは東洋大と中大の熱い思いがぶつかり合い、凄まじいエネルギーが島田を襲った。この圧力に島田は耐えきれず、同点を許してしまう。そして最後は力尽き、打球は外野へと転がっていった。
喜ぶ中大を背に、立ち尽くした
打球が転がった方向を眺め続け、その場に立ち尽くすしかなかった。試合後もベンチ横で涙を流し、悲しみに打ち沈んだ。島田はこの悔いを抱え続けることになる。
責任を感じ、涙が止まらなかった(右)
時は過ぎ2023年。この春はリーグ戦に3度登板し、2部優勝に貢献。チームは再び入替戦の舞台にたどり着いた。「この春の入替戦のために、全てやってきた」。自身だけではない、東洋大ファンの誰しもが島田が入替戦で雪辱を果たしてくれることを望んだだろう。入替戦の借りは入替戦でしか返せない。この願いが現実となり、聖地神宮で実現した。
チームは1戦目を制し、1部復帰に王手をかけ2戦目に挑んだ。こちらが3点を奪うも6回まで0に抑えた野澤(総4=龍谷大平安)が七回に3連打を浴び、2死満塁で降板。「2番手で投げると決まっていた」。1年前と同じ、ピンチの場面を背負うこととなった。
いざ、リベンジの時
投手交代を見守るベンチも、緊張が走っていた1年前とは違った。山地(営3=天理)の力強い声かけが、東洋大ナインの士気を上げ、島田のリベンジ登板を盛り立てる。「何度立っても最高の気分になる」と大好きな神宮のマウンドで、井上監督からボールを渡された島田は東洋大の仲間を見つめ、笑みをこぼした。「去年とは変わった姿を全員に見せつけたい」。1年越しのリベンジマッチが幕を開けた。
登板前、東洋大ナインにニコリ
気迫のこもったピッチングだった。一球ごとに溢れ出る感情を抑えきれない。2ストライクで相手をすぐに追い込むと、打球は三塁加藤響(総3=東海大相模)のもとへ。そうしてこの場を0に抑えた島田は、マウンド上で吠え、大きくガッツポーズ。感情を爆発させた。
満塁を抑え、雄叫びをあげた
燃え出したら止まらない。八回も右腕を投じ、初球から152㌔を叩き出すと、段々とボルテージを上げていき、目標としていた「153㌔」の文字をバックスクリーンに映し出した。進化を見せつけた背番号「18」の姿に、観客たちは騒然とした。
神宮で実力を見せつけた
こうして奮闘する島田に、野球の神様は再び挑戦状を送りつけた。四球をきっかけに1死一、三塁のピンチを作り出す。それでも続くバッターを3球三振とすると、150㌔台を連発する島田に惹かれるように、外野近くのブルペンメンバーが立ち上がり、彼を見守るように。全員の目を奪った島田は最終的に、遊撃手の石上泰(営4=徳島商業)の好捕に助けられ、この苦難を乗り切った。その瞬間、三塁側から歓声が沸き上がり、ブルペン陣もお祭り騒ぎ。九回も登板し、四球を与えたところでマウンドを降りたが、念願の1部を前に華の舞台を演出した。島田の思いは石上祐(法4=東洋大牛久)が受け継ぎ、完全に駒大を退けた。
島田のピンチ脱出にブルペン陣も大喜び
奮闘した島田をブルペン陣が讃えた
今年の入替戦が幕を閉じた時、島田は上を向き、その目は輝いていた。「去年の入替戦が自分を大きく成長させてくれた」。どん底に落とされても腐ることなく、再び神宮で借りを返す時を信じて、辛い2部生活を耐え抜いたからこそ、過去を語れる。そして「やってきたことは間違ってなかった」と晴れ舞台で実力を証明した。
今期の最後、島田は上を向いていた
エースの細野と抱擁を交わした
秋からは念願の1部で腕を振るうことになる。ついに自身の実力を大舞台で発揮する時が来た。「もっと自分を成長させられるように、楽しみたい」。そして「エースになります!」と高らかに宣言した。
入替戦がもたらす残酷と栄光を心に焼き付けた。1部では優勝がなくなった途端、過酷な入替戦回避争いが待っている。今度は「1部」の舞台で2年間で経験した様々な思いを胸に、熾烈を極める「戦国東都」を引っ張る存在になるんだ。
神宮で輝け!
■コメント
・島田(総2=木更津総合)
(久しぶりの神宮球場でした)とても気持ちよかったです。あそこのマウンドは何度立っても最高の気分になります。(入替戦での予定は)2戦目は2番手で当番予定でした。(1戦目勝利したときは)細野さんなら必ず勝ってくれると思ってたので、予定通りだなと思いました。(2戦目、満塁での登板となりました)去年の春の入替戦でもピンチの場面での当番だったので、去年とは変わった姿を見ている人全員に見せつけてやろうと思って投げてました。(抑えたときの気持ちは)最高の気持ちでいっぱいでした。溢れ出る感情を抑えきれなかったです。(今日は153キロを記録しました。自分自身の真っすぐはいかがでしたか)今までのフォーム的に力で押してるイメージで投げていたんですけど、もっと力感がなく、球は伸びるフォームを目指してやってきて。今日は球速が出てるとは思わなかったんですけど、153キロ出たので、やってきたことは間違えてなかったと実感しました。今年の目標が153㌔だったのでこの春に果たせて良かったです。(この日までどのような思いを抱えてきましたか)この春の入替戦の為に全てやってきたので、去年の入替戦の借りを返せたのは凄く嬉しいですし、去年の入替戦があったからこそ、自分はここまで成長できたんだなと思っているので、去年の入替戦は自分を大きく成長させてくれたものだと思っています。(九回は途中で降板となりましたが)最後まで投げたかったです!!!(秋に向けて)秋からは1部の舞台で、今までとは一段階レベルの高い野球をできると思っているので、そこでもっともっと自分を成長させられるように、楽しくやっていきたいと思います。(目標は)リーグ優勝して日本一です!(エースになりますか)なります!!!(乾コーチがきた影響は)乾さんが来て、フォームであったりトレーニングを見直しました。乾さんが来てから初動負荷トレーニングを始めて。乾さんは全員に同じことを言うのではなく、個々に違う場面、場所、フォームを教えてくれます。聞かないと教えてくれないんですけど、自分で考えるという指導法なので、乾さん来てから自分の投球についてみんな考えるようになったと思います。
TEXT/PHOTO=宮谷美涼